線維筋痛症に伴う「抑うつ症状」を漢方の視点から詳細に分析!

線維筋痛症は、患者の様々な訴えに対して裏づけとなる臨床検査における異常が認められず、天候・温度・気圧・湿度などの環境変化や肉体負荷・労働・睡眠状態などの体のコンディション、または感情的なトラブルなどに影響を受けやすいことから心因性リウマチといわれた時期もありました。ここでは、線維筋痛症と抑うつ症状との関連性を分析し、漢方による捉え方と改善法のひとつをご紹介いたします。
心身症の側面を持つ線維筋痛症

線維筋痛症は慢性疼痛の典型例といわれることもありますが、心身症としての側面も合わせ持つ疾患と捉えることもできます。発症の背景には遺伝的要因や生理学的要因とともに、日常生活における様々な心理社会的ストレス要因も大きく関係します。線維筋痛症の発症と同時期に、手術、事故、外傷、出産、肉体的過労、過剰な運動などを経験した人の数は、実に患者全体の9割以上に上るといわれています。また、不安、抑うつ、怒り、強迫、過緊張、焦燥などといった心理的ストレスと連動して病態が変動し、強迫や完全性、執着などの性格特性もみられ、強い心身相関が認められます。
線維筋痛症患者の71%にうつ病の既往がみられ、発症の1年以上前には64%がうつ病を経験しているという報告もあります。また、多くの例で明らかなストレス要因が認められ、高揚と抑うつを繰り返す循環性、あるいは焦燥、いらだち、攻撃性などを有しているといわれます。現在、線維筋痛症はリウマチ疾患に分類されていますが、うつ病や自律神経失調症と共通する部分が多く、心身症の側面を考慮することが、この病態の理解につながります。
肝はストレスに対応する臓器

漢方では、正常な喜怒哀楽という人間の感情は、気血が滑らかに運行することによって維持されると考えられています。全身を巡る気のスムーズな運行は、生体機能を正常に維持するための大切な要素です。この働きがうまくいかなくなると、気分がふさいだり無気力状態になったりという抑うつ症状が生じます。気の運行をコントロールしているのは肝です。気を遅滞なくスムーズに巡らせる肝の働きを疏泄作用と呼び、肝は疏泄作用によって外部からの刺激を防ぎ、体内の乱れや体外からのストレスに対して適切に対応してくれる臓器といえます。
肝の疏泄作用に異常が起きると気の流れに滞りが生じ、気を巡らす力が弱くなって抑うつ症状を発症します。時によっては、気を巡らす力は弱くないのに停滞してしまうことがあり、結果的に気が強くなりすぎてしまう場合もあり、この現象は精神的ストレスに関連することが多いといわれます。このような状態では、胸が塞がったような感じ、胸脇部(横隔膜付近)が張ったような感じ、移動する痛み、軽快憎悪を繰り返す痛み、焦燥感、イライラ感、ため息、無気力感などといった症状が多く出現します。
自律神経をコントロールする生薬「柴胡」とは

線維筋痛症で抑うつ症状が生じた時に、私たちは柴胡を含有する漢方薬を使用することがあります。柴胡は、肝の疏泄作用をサポートして気の流れを整える効果を持ち、抑うつ症状や緊張状態を改善するといわれます。自律神経系をコントロールし、様々な機能を円滑にするため、気の流れに滞りが生じたときによく使用される生薬です。柴胡の基原は、ミシマサイコBupleurum falcatum Linné(Umbelliferae セリ科)の根で、香気が強く、質は緻密で柔軟性があり、潤いのある、ひげ根のないものが良品とされます。
三島柴胡の野生品は最高品質といわれてきましたが、現在は流出していません。主成分であるサイコサポニンの含量は芯が木化していないもの、細いもの、枝根の部分に多いといわれます。栽培品の1年ものは細いものの木化の程度が低いといわれます。一方、2年ものは太くて見栄えは良いのですが木化しているものが多くあります。中国産の野生品も太いものは木化しているものが多いといいます。江戸時代、全国的に生産されるようになったサイコは、静岡県三島が良質な柴胡の大集荷地であったため、ミシマサイコと呼ばれるようになりました。
当時は、三島の宿に立ち寄った旅人は必ず買って帰るのが慣わしになっていたというほど三島の柴胡は有名でした。「三島柴胡」という名は、伊豆の草原地帯を初めとして関東から東海地方にかけて産出したものを指します。それに対し、九州地方を初めとする西方に産出したものは「鎌倉柴胡」と呼ばれていたといいます。近年になって野生のミシマサイコはほとんど消滅し、現在流通している柴胡のほぼ全てが栽培品です。
うつ病治療のカギを握るアストロサイト

うつ病に関する研究は古くから行われてきましたが、そのほとんどは神経細胞に注目したものでした。しかし、1998年に発表された「うつ病患者の前頭前皮質ではグリア細胞の数が減少している」という報告をきっかけとして、うつ病におけるグリア細胞の重要性が次々と報告されています。そして、グリア細胞のひとつであるアストロサイトが、うつ病の病態メカニズムにおいて重要な役割を担うことを明らかにした研究があります。
アストロサイトは、生体におけるエネルギー通貨といわれるATPを放出し、神経活動をコントロールすることによって脳機能の調節に深く関わっています。そこで、うつ病を発症したモデルマウスの前頭前皮質と海馬内の液性因子を回収してATP量を測定してみると、正常マウスに比べて約30%も減少していることが明らかにされました。この結果から、うつ病に対するアストロサイトの重要性がうかがえます。
また、アストロサイトは脳で発生したタンパク質のゴミを処理する役割も担っています。この働きに異常が生じると体に様々な支障をきたすといわれています。私たちは、これを正常化することによって、うつ病、慢性疼痛、関節炎、不眠症などを改善するという頭蓋仙骨療法に注目いたしました。頭蓋仙骨療法は、アストロサイトを通じて脳で生じたゴミを運搬する脳脊髄液の流れを整え、健康を取り戻すというものです。
先の研究からもわかるように、線維筋痛症などに付随して起こる抑うつ症状には脳へのアプローチが重要であると考えられます。この点から、脳へダイレクトにアプローチするメディカルアロマシャワーの効果も魅力的です。私たちは、漢方薬、頭蓋仙骨療法、メディカルアロマシャワーに加え、療養泉の効果の源といわれる天然鉱石を使用し、メディカルアロマ頭部浴・脚部浴を行い、線維筋痛症、あるいは、それに付随する抑うつ症状などの改善に努めています。線維筋痛症は、他人には理解し難い痛みに悩まされる病気です。1日でも早く、この痛み、苦しみから解放されることをお祈りいたします。
薬剤師・美容師の資格を所有しています。幼少時より自然食品を中心とした生活を送る中で食事の大切さを学び、その後、漢方薬を学びました。日々、苦痛が少なく効果が大きい健康法の開拓に努めています。