線維筋痛症の不眠に酸棗仁の漢方とアロマ成分α-サンタロール

線維筋痛症の大きな特徴である「体の痛み」と「睡眠の質」との間には深い関連性があり、質の高い睡眠が取れたときには日中の痛みが大幅に軽減し、反対に、よく眠れない夜が続くと痛みは一層強さを増すという報告があります。数々の研究から、線維筋痛症患者の多くは、寝つきが悪い、夜中に目が覚める、寝てもスッキリしないなど様々なタイプの不眠の悩みを抱えていることが明らかになってきています。

線維筋痛症と不眠の複雑な関係

不眠は、体の痛み、朝のこわばり、疲労感などとともに、高い確率で線維筋痛症に併発する症状のひとつで、睡眠は時間だけではなく、質の良し悪しも大切な要素であると考えられます。たとえ睡眠時間が十分に確保できたとしても、睡眠の質が低いと、「寝ても疲れが取れない」、「朝の爽快感がない」という症状が出てきます。不眠は、就寝時刻が遅くなる、寝つきが悪い、朝早く目覚めてしまう、寝ても疲れが取れないなど、数多くの要因を抱え、病院でも何科を訪れればいいのか悩んでしまうという話もよく耳にします。また、うつ病と不眠が線維筋痛症患者の疲労を誘発することもあります。さらに、心理的要因も重なり、線維筋痛症と不眠との関係性は煩雑を極めます。

線維筋痛症における不眠を治す「酸棗仁」を含有する漢方の効果

「線維筋痛症診断ガイドライン2017」によると、線維筋痛症患者(日本人)の73.1%が不眠の悩みを抱えているといいます。このような場合に、私たちは酸棗仁含有の漢方を選択することがあります。酸棗仁は、心神の安定作用を有する生薬です。精神的ストレスは気の運行を妨げ、熱を生じます。熱は滋養分を消耗するため、心の血が不足し、心神が養われなくなります。すると、心神は不安定な状態に陥り、不眠・多夢・不安感などを引き起こします。また、頭部に送られる滋養分が不足すると、めまいや健忘などが出現し始めます。酸棗仁は、不足した血と滋養分を補い、様々な不眠を治すといわれる生薬です。酸棗仁の基原は、サネブトナツメ Ziziphus jujuba Miller var. spinosa Hu ex H. F. Chou(Rhamnaceae クロウメモドキ科)の種子で、表面は小豆色を呈して光沢があり、味は緩和で油様、ほのかに甘いものが良品とされます。サネブトナツメは、ナツメの原種と考えられています。この名称は、果実の果肉が薄く、種子(核:サネ)の割合が大きく太いことから名付けられました。ちなみに「ナツメ」という名称は、他の植物に比べて芽生えるのが遅く、初夏に芽生えることから「夏芽(ナツメ)」と呼ばれるようになったといわれます。生薬名の酸棗仁は、果実の味がナツメと比べて酸味が強いことに由来します。

不眠に対するアロマ成分「α-サンタロール」のリラックス効果

線維筋痛症に併発する不眠において、アロマテラピーのリラックス効果も見逃せません。アロマテラピーに用いられるエッセンシャルオイルには非常に多くの有効成分が含まれますが、その中のひとつであるα-サンタロールという成分を皮膚から吸収させることによって、非常に高いリラックス効果が得られたという報告があります。

研究の手順をチェック

この研究では、始めに健康な被験者をふたつのグループに分け、片方のグループにはα-サンタロールを、もう片方のグループにはプラセボ(偽薬)を経皮投与します。次に、それぞれのグループの生理学的パラメータを計測します。最後に、計測された生理学的パラメータを元に、α-サンタロールのリラックス効果をチェックします。この研究は皮膚からの吸収による効果を検証することを目的としているため、被験者にはマスクを装着していただき、香りによる影響は排除しました。生理学的パラメータは、血中酸素飽和度、血圧、瞬目率(単位時間あたりの瞬き回数)、脈拍数、呼吸数、皮膚コンダクタンス(皮膚の電気伝導度)、皮膚温度、表面筋電図をチェックし、自律神経系の覚醒レベルの指標としました。

チェック結果により証明されたα-サンタロールのリラックス効果

α-サンタロール、プラセボ投与後の生理学的パラメータをチェックした結果、プラセボ群に比べてα-サンタロール群の瞬目率、脈拍数、収縮期血圧が大きく低下することがわかりました。これらは、いずれも自律神経系の覚醒レベルが下がったことを意味することから、α-サンタロールは生理学的にリラックス効果を有することが明らかになりました。

不眠を伴う線維筋痛症に対する酸棗仁・α-サンタロールの漢方薬アロマタッチによる対策

線維筋痛症を患う方々の多くは、不眠にも悩まされているといいます。そして、質の高い睡眠が取れないことによって治る力が低下して、痛みが益々ひどくなるという悪循環に陥ることが多々あります。このようなケースに遭遇したとき、私たちは酸棗仁やα-サンタロールなどを使用する漢方薬アロマタッチをお勧めすることがあります。酸棗仁は血と滋養分を補い、心神の安定をもたらします。α-サンタロールは高いリラックス効果を持つエッセンシャルオイルの成分です。漢方薬アロマタッチは、これを体の中で最も浸透性の高い部位といわれる頭部から浸透させることによって、その効果を一層高いレベルへと引き上げます。さらに、脳におけるデトックスの役割を担う「グリンパティックシステム」を正常化するという頭蓋仙骨療法、湯治場として有名な三朝温泉・玉川温泉の効果の源といわれる天然鉱石などの力を借りて、症状の改善を目指します。

慢性ストレスが線維筋痛症に与える影響

線維筋痛症は環境からも大きな影響を受けるといわれますが、その中でも特に大きな環境要因と考えられるのが慢性ストレスです。

脳が生み出すストレスホルモン

線維筋痛症では神経内分泌系機能障害が問題視されることがありますが、慢性ストレスは、この根本的な要因であると考えられています。例えば、視床下部 – 下垂体 – 副腎系(HPA系)の異常です。視床下部と下垂体は脳組織の一部で、HPA系を介した内分泌反応は様々な精神疾患との関連が示唆されています。ストレスを受け、視床下部から副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)が分泌されると、下垂体前葉からの副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の分泌が促進されます。分泌されたACTHは副腎皮質を刺激し、コルチゾール(ストレスホルモンと呼ばれることもあります)の分泌を促進します。海馬・視床下部・下垂体には、コルチゾールと結合する受容体(糖質コルチコイド受容体<GR>、鉱質コルチコイド受容体<MR>)が存在し、コルチゾールの分泌量が一定量に達すると、これらの受容体を介してCRHやACTHの合成・分泌が抑制され、その結果、コルチゾールの分泌量が減少します。この一連の流れは「ネガティブフィードバック制御」と呼ばれます。HPA系は、ストレスの原因「ストレッサー」から体を守るメカニズムのひとつです。その中でも、ネガティブフィードバック制御はコルチゾールの神経細胞への過度な曝露を抑制する仕組みであると考えられています。

痛みと不眠の悪循環により治る力が弱くなる

HPA系の異常はコルチゾール反応の調整に大きな影響を及ぼし、疲労、痛み、抑うつ気分、不眠など、線維筋痛症に併発する様々な症状を引き起こします。さらに、成長ホルモンの分泌異常とも関係しています。筋線維の小さな傷を治すためには成長ホルモンが必要なため、HPA系に異常が生じ、不眠を発症すると、成長ホルモンの分泌量が減少し、傷ついた筋肉組織を治すことができなくなります。これによって、筋肉組織から中枢神経への感覚刺激が延長し、筋肉疼痛の知覚が高まります。すると、今度は増強された筋肉疼痛が不眠を悪化させ、ますます筋肉の治りが遅くなるという悪循環を引き起こします。

心拍変動チェックにより線維筋痛症患者の交感神経の働きすぎが判明

線維筋痛症患者は心拍変動の異常を抱えていることが多く、直立姿勢および傾斜台試験(血管迷走神経性失神<迷走神経の活動により起きる失神>の原因についての情報を提供するために考案された試験で、試験中、被験者の姿勢を横臥位から立位まで変化させ、血圧と心拍数のチェックと分析を行います。)における交感神経反応に変化が生じたという報告があります。ここから、線維筋痛症患者の交感神経は、昼夜を問わず過剰に働いていることが読み取れます。

睡眠ポリグラフ検査によるチェックからわかった睡眠の断片化

線維筋痛症において、不眠は二次的現象と考えられることが多く、チェック時の必須項目に精密な睡眠検査は含まれていません。しかし、睡眠後も体の疲れが取れず、病院の治療も芳しくない時に、睡眠ポリグラフ検査によるチェックを行うことによって、これまで見過ごされてきた事実や要因が明らかになることがあるといいます。睡眠ポリグラフ検査とは、脳波・眼球運動・心電図・筋電図・呼吸曲線・いびき・動脈血酸素飽和度などの生体活動を一晩にわたってチェックする検査です。 この検査を行った結果、不眠では睡眠構造に明確な変化が起きていることがわかったという報告があります。その中でも特に注目すべき現象が、α波の乱れといわれる睡眠の断片化です。この現象は、線維筋痛症患者の50%で観察されており、爽快感のない睡眠、痛み、疲労、抑うつ気分といった線維筋痛症の重症度と相関するCyclic Alternating Pattern(CAP)として認識されています。

アクティグラフィーで線維筋痛症患者の活動レベルをチェック

睡眠・覚醒を客観的にチェックする指標として「アクティグラフィー」というチェック法もあります。これは、超小型精密加速度計を内蔵した装置を体に装着することによって長期間の体動をチェックする手法です。このアクティグラフィーを用いて、線維筋痛症患者の活動レベルをチェックしたという報告があり、これによると、他の病気を併発していない時の日中活動レベルは、夜間の活動レベルが上昇する不眠と同程度であることがわかったといいます。一方、うつ病を併発している場合には、日中活動レベルの低下に加え、昼間の睡眠量が大幅に増加し、夜間における睡眠中断と運動量の増加もみられました。

線維筋痛症の完治を目指すためには多角的アプローチが大切

線維筋痛症は、レディー・ガガ、モーガン・フリーマンなどの芸能人も発症し、痛み以外にも複雑な病態生理を伴い、病院でも何科に行けばいいのか迷うことも多いといわれますが、その中でも不眠は頻発する症状です。これをチェックするために、睡眠ポリグラフやアクティグラフィーといった器具も開発されています。線維筋痛症の完治を目指すためには、視野を広く保ち、多角的にアプローチすることが大切であると考えられます。