認知症の薬のしくみと漢方薬アロマタッチの可能性

認知症は、様々な原因によって脳の神経細胞が破壊され、徐々に減少することによって脳の処理機能が低下する病気です。現在、神経細胞を再生する薬や神経細胞の破壊を防ぐ薬はありません。病院で処方される薬は、認知症の進行を抑制することを目的としています。「薬を飲んでも効果が感じられない」という話を耳にすることがありますが、良くするための薬ではなく、『進行を抑制する』ための薬なので、認知症の症状に変化がなければ薬は効いていることになります。この点を踏まえて、ここでは認知症の薬の種類や特徴を説明するとともに、日常生活の快適化を目指す漢方薬アロマタッチの可能性についても言及していきます。

認知症の薬「アリセプト(ドネペジル)」

アリセプトは、現在、病院で処方されるアルツハイマー型認知症の治療薬として中心的存在となっている薬です。アメリカのファイザー社と日本のエーザイ社によって共同開発され、アルツハイマー型認知症の治療薬として世界で最初に承認された薬で、現在はレビー小体型認知症にも使用されます。

アリセプトが効く仕組み

アリセプトは、アセチルコリンを分解する酵素であるコリンエステラーゼを可逆的に阻害することによって脳内のアセチルコリンの濃度を上げ、神経細胞の機能を活性化する薬です。

アリセプトの効果と特徴

この薬の服用によって「落ち着きがみられ、物忘れが少なくなる」「会話の疎通性が良くなる」「服用前に比べて話の理解力が上がる」「物事の手順を考えられるようになる」「家族を他人と間違えることが少なくなる」「物事を思い出すまでの時間が短くなる」といった症状改善効果がみられます。このように薬の服用によって認知症の進行が抑えられ、10ヶ月前後は症状を維持できるといわれます。また、この薬は「軽度から高度に至るアルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制」に対する適応が承認されているため、重症度に関係なく使用されます。

アリセプトの副作用

軽度及び中等度のアルツハイマー型認知症に対する主な副作用には、食欲減退(1.79%)、悪心(1.76%)があります。高度のアルツハイマー型認知症に対する主な副作用には、食欲減退(8.81%)、悪心(8.03%)、嘔吐(6.99%)、下痢(4.92%)があります。レビー小体型認知症に対する主な副作用には、パーキンソニズム(6.65%)、転倒(3.76%)、悪心(3.47%)、下痢(3.47%)、便秘(3.47%)、食欲減退(3.18%)があります。

認知症の薬「レミニール(ガランタミン)」

レミニールは、海外では、錠剤と内用液がアメリカ、フランス、イギリス、ドイツを含む73の国と地域で承認されている軽度から中等度のアルツハイマー型認知症の薬です。日本では、錠剤に加えて、食べ物や薬をうまく飲み込めない人でも飲みやすい口腔内崩壊錠と内用液の3種類の剤形が承認されています。

レミニールが効く仕組み

レミニールもアリセプトと同様に、アセチルコリンを分解する酵素であるコリンエステラーゼを阻害することによって脳内のアセチルコリン濃度を上昇させる薬ですが、さらにニコチン性アセチルコリン受容体に対するAPL作用により脳内コリン機能を増強させることにより、アルツハイマー型認知症における記憶障害の進行を抑制することが期待できる薬です。APL 作用とは、ニコチン性アセチルコリン受容体において、レミニールがアセチルコリンとは異なる部位(アロステリック部位)に結合し、アセチルコリンが受容体に結合した際の薬の働きを増強させる作用のことです。

レミニールの効果と特徴

この薬の臨床試験では、認知機能障害悪化の抑制、日常生活動作の維持、介護者の見守り時間減少などの治療効果が示されています。適応は、軽度および中等度のアルツハイマー型認知症です。

レミニールの副作用

軽度及び中等度のアルツハイマー型認知症に対する主な副作用には、悪心(14.9%)、嘔吐(12.4%)、食欲不振(8.3%)、下痢(6.2%)、食欲減退(5.4%)、頭痛(4.6%)があります。

認知症の薬「リバスチグミン(リバスタッチパッチ、イクセロンパッチ)」

リバスチグミンは、ノバルティスファーマ社(旧サンド社)で創製された1日1回貼付することで効果を示す経皮吸収型製剤(パッチ剤)のアルツハイマー型認知症の薬です。初めは経口投与を目的として製剤化が行われ、アルツハイマー型認知症患者に対して有効性を示し、カプセル剤が1997年7月にスイスで、続いてEU及びアメリカで承認され、経口剤(カプセル剤又は経口液剤)は79ヵ国で承認されています(2019年3月時点)。しかし、コリンエステラーゼ阻害剤に共通する副作用として消化器症状(主に悪心、嘔吐)が認められ、これらの副作用は経口投与時の高い最高血漿中薬物濃度(Cmax)、あるいはそれに伴う血漿中薬物濃度の大きな変動によるものと考えられました。そのため、これらの副作用を軽減することを目指して開発されたのが経皮吸収型製剤(パッチ剤)です。リバスチグミンのパッチ剤は2007年7月にアメリカで最初に承認され、その後EU諸国、日本を含めた世界90ヵ国で承認されています(2019年3月時点)。

リバスチグミンが効く仕組み

リバスチグミンは、アセチルコリンの分解酵素であるアセチルコリンエステラーゼとブチリルコリンエステラーゼの阻害作用に基き、脳内のアセチルコリン濃度を上昇させて脳内コリン作動性神経機能を活性化する薬です。コリンエステラーゼにはアセチルコリンエステラーゼとブチリルコリンエステラーゼの2種類があります。アセチルコリンエステラーゼは神経細胞に存在し、神経伝達物質であるアセチルコリンのみを分解します。一方、ブチリルコリンエステラーゼは血管内皮細胞やグリア細胞に存在しています。認知症の進行にともなって神経細胞の脱落が起こり、アセチルコリンエステラーゼの活性は低下します。一方、脳内のグリア細胞の数は増加するため、相対的にブチリルコリンエステラーゼの活性は上昇しているため、アセチルコリンエステラーゼ阻害作用だけでなくブチリルコリンエステラーゼ阻害作用を合わせ持つこの薬は、脳内での更なるアセチルコリン濃度の上昇が期待されます。

リバスチグミンの効果と副作用

小野薬品から出ている薬には「リバスタッチパッチ」、ノバルティスファーマから出ている薬には「イクセロンパッチ」という製品名が付けられています。日本の病院で処方されるこの薬の剤形はパッチ剤(経皮吸収型製剤)です。パッチ剤では、緩やかで持続的な薬の供給が24時間行われ、最高血中濃度は経口剤よりも低く、消化器症状の副作用が生じることもあまりありません。その一方、パッチ剤という性格上、皮膚症状という副作用が起こります。しかし、副作用といっても発赤や痒みなどといった軽微なものがほとんどで、忍容性には大きな支障のないことが示されています。この薬の適応は軽度および中等度のアルツハイマー型認知症です。パッチ剤の利点としては、服薬の確認が容易で、副作用が出た場合には剥がすことによって薬の吸収を止めることが出来る点です。また、嚥下障害のある方に投与することも可能です。

認知症の薬「メマリー(メマンチン)」

メマリーは、ドイツのMerz Pharmaceuticals GmbHで開発されたグルタミン酸受容体サブタイプのひとつであるN-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体拮抗を作用機序とするアルツハイマー型認知症の薬です。2002年に欧州医薬品庁(EMA)、2003年に米国食品医薬品局(FDA)よりアルツハイマー型認知症を適応として承認され、世界89の国や地域(2017年9月現在)で主に中等度から高度アルツハイマー型認知症を適応として承認されています。日本でも有効性と安全性が確認され、「中等度及び高度アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制」の効能又は効果で承認を取得し2011年6月にフィルムコーティング錠を発売しました。さらに、2013年12月に口腔内崩壊錠、2018年2月にドライシロップ剤の剤形追加を申請し、承認を取得しています。

メマリーが効く仕組み

この薬は、他の薬とは違ってグルタミン酸が作用するNMDA受容体に働きかける薬です。認知症の原因としてはアセチルコリン仮説の他にも仮説があり、この薬は「グルタミン酸仮説」に基く治療薬です。グルタミン酸は脳内の主な興奮性神経伝達物質で、その受容体のひとつにNMDA受容体というものがあります。NMDA受容体は大脳皮質や海馬に高密度に存在し、記憶に関係しています。認知症の記憶障害には、このグルタミン酸ニューロンや NMDA 受容体の減少が関与していると考えるのが「グルタミン酸仮説」です。この仮説では、グルタミン酸がNMDA受容体を過剰に刺激することによって神経細胞死や記憶形成過程の障害が引き起こされると考えられています。この薬は、NMDA受容体への過剰な刺激を抑えることによって神経細胞を保護し、記憶や学習機能障害を抑制する作用を持つ薬です。

メマリーの効果と特徴

メマリーは1日1回5mgの服用から開始し、1週間ごとに5mgずつ服用する量を増やします。4週目以降は、1日1回20mgを服用します。飲み始めは、体を慣らすために通常1週間ごとにお薬の量が増えていきます。薬の量が増えるのは、症状が悪化したからではないことを知っておくことが大切です。また、メマリーは食前、食後、食間など食事時間にかかわらず服用できるのも特徴のひとつです。

メマリーの副作用

メマリーの主な副作用として、めまい、便秘、体重減少、頭痛、食欲不振、血圧上昇、転倒、浮腫、歩行異常、幻覚などが報告されています。まれに下記のような症状があらわれることがあります。これは、[ ]内に示した副作用の初期症状である可能性があります。このような場合には使用を中止し、速やかに医師の診療を受けてください。

  • 筋肉が発作的に収縮する状態[痙攣]
  • 気を失う[失神、意識消失]
  • 感情や声が激しく高ぶった状態、自分または他人を攻撃し傷つける行動をとる、根拠のない主観的な思い込み[精神症状(激越、攻撃性、妄想、幻覚、錯乱、せん妄)]
  • 全身倦怠感、食欲不振、皮膚や白目が黄色くなる[肝機能障害、黄疸]
  • 筋肉の痛み、力がぬける、赤褐色の尿[横紋筋融解症]

認知症と脳のゴミ

成人の脳では、日々7gほどのタンパク質のゴミが作られ、適切な排泄が行われないと脳に蓄積し、健康を損なうといわれています。認知症の原因物質ではないかといわれるアミロイドβ(ベータ)も脳で生じるゴミの一種です。通常、これらのゴミはグリンパティックシステムと呼ばれる脳のクリーニングシステムによって処理されていますが、ここに何らかのトラブルが生じるとゴミは脳に蓄積されることになります。「脳に溜まったゴミをいかに捨てるか?」これが認知症を克服するためのカギになると考えられます。

脳のゴミ「アミロイドβ」

一般に、人間の体で生じたゴミは腎臓や肝臓で処理され、体外へ排泄されます。その過程では、体中に張り巡らされたリンパ系が様々な組織で生じたゴミを回収し、細い導管→太い導管→血管の順に流れ込み、ゴミを腎臓や肝臓へと運び込むのです。かつて、脳にはリンパ系のようなゴミを回収する仕組みは存在せず、脳で生じたゴミは全て脳内で処理されると考えられていました。しかし、近年の研究によって脳にもゴミを回収する仕組みが備わっていることが発見されました。この仕組みを「グリンパティックシステム」といいます。脳の血管は「血管周囲腔(けっかんしゅういくう)」に囲まれ、両者の間には脳脊髄液(のうせきずいえき)という液体が流れています。血管周囲腔の外側は「アストロサイト」と呼ばれる支持細胞とつながっています。脳で生じたゴミは脳脊髄液中に排泄され、アストロサイトを通じて静脈内に送られて腎臓や肝臓で処理されることがわかっています。認知症の脳内では、グリンパティックシステムが正常に機能せずにアミロイドβという脳のゴミが蓄積し、記憶が失われていくのではないかといわれています。

脳のゴミを捨てる手法

グリンパティックシステムは、近年になって明らかにされた脳のゴミ処理システムです。しかし、この存在は以前より予見され、時折、脳で生じたゴミの排泄ルートである脳脊髄液の流れ方に異変が起きることに気付いた医師がいます。この医師は、脳脊髄液の流れに異常が生じると記憶力・集中力の低下、頭痛、無気力、慢性疲労など様々な現象が起きることを発見し、さらに、外部からの手指刺激を用いた脳脊髄液の流動調整によって、これらの症状が治癒することを見出だしました。この手法は頭蓋仙骨療法(とうがいせんこつりょうほう)と呼ばれ、まさにグリンパティックシステムの正常化を目指す手法と考えられます。グリンパティックシステムの研究には、脳における水の出入り口となる「アクアポリン4」というタンパク質の発見が重要な役割を果たしましたが、アクアポリン4の働きを証明するためには脳内の水の動きを生きたまま可視化する必要がありました。当時は現在のような高度な顕微鏡技術がなかったため、世の中の人にグリンパティックシステムの存在を広く認知されるのは難しかったのかもしれませんが、頭蓋仙骨療法における脳脊髄液の流動システムの考え方は、まさしくグリンパティックシステムそのものです。

日常生活の快適化を目指す「漢方薬アロマタッチ」

私たちは、この手法をさらに進化させ、脳に働きかける漢方薬、大きなリラックス効果を生むメディカルアロマシャワー、温泉療法を頭蓋仙骨療法と融合し、様々な角度から脳を活性化させることを目指した「漢方薬アロマタッチ」を開発いたしました。漢方薬、メディカルアロマ、頭蓋仙骨療法、温泉療法をそれぞれ単独で用いるのではなく、全てを同時に行うことに私たちは大きな意義を見出しています。漢方薬アロマタッチでは漢方薬を必要とするため、薬剤師の資格と医薬品の取り扱い許可が必要です。また、メディカルアロマシャワーの実践には美容師の資格と美容所の許可が必要です。私たちは、これら全ての資格と許可を所有し、みなさまに安心してご利用いただける環境を整えています。漢方薬アロマタッチは、既成概念にとらわれず、何とか認知症のお悩みを解決する方法はないかと模索した結果、ようやく辿り着いた手法です。漢方薬アロマタッチが目指すのは日常生活の快適化です。認知症対策のひとつとしてお考えいただければ幸いです。

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