線維筋痛症の「移動する痛み」に漢方薬+α

国内で約200万人が罹患しているといわれる線維筋痛症は、体の様々な部分に痛みを発する病気ですが、その痛み方も人によって大きく異なるといいます。そのなかには、痛い部分が移動するという珍しい症状が起きることがあります。ここでは、この「移動する痛み」に焦点を当て、その原因と特徴を探り、漢方薬を使った治し方のひとつをご紹介いたします。

移動する痛みの原因と特徴

体のバランスが崩れると様々な病気が発症しますが、漢方では気候の変化も発病要因のひとつと捉えています。自然界に存在する気候変化を風、寒、暑、湿、燥、火の6種類に分け、これを六気と呼びます。人間は、日々の生活の中で気候の変化を知って適応力を身につけていくため、正常な六気によって発病することは少ないといわれます。しかし、気候変化があまりに激しすぎたり、反対に足らなかったりしたときや、季節外れの気候が生じたりしたときには、六気が抵抗力の弱い人の体に襲い掛かり、病を引き起こします。このように病を引き起こす原因となる六気のことを六淫、または六邪といいます。六淫の邪気は、それぞれ単独で病を引き起こす原因になりますが、複合的に働いて発病させることもあります。

「移動する痛み」は、風、寒、湿が複合的に働くことによって引き起こされるもので、なかでも風邪(ふうじゃ)が主な原因となるときに起こる症状です。風邪による病巣部は、あちこちに移動して行き先が定まらないという性質を持っています。すなわち、関節や筋肉の痛みが体中を移動する場合は風邪による影響が大きいと考えられます。風邪は変化しやすいという特徴を持つため、初めに痛かった部分が別の場所に移動してしまうと元の場所の痛みはなくなってしまうということが起きるのです。また、変化するスピードも速く、急激に発症することが多いといわれます。このタイプは痛みの初期に発生する場合が多く、痛みはあまり強くないのが一般的です。また、風邪は体の上部から入り込むため、腕や肩、背中などから痛み始めることが多く、いきなり下半身から痛み始めるケースは稀だといわれます。

漢方薬で移動する痛みを治療する

漢方の痛みに対する基本的な考え方は「不通則痛(通ぜざれば則ち痛む)」です。風、寒、湿が混ざり合うと経脈が閉塞し、気血の運行が悪くなり、筋肉や関節に痛みが生じます。そこで、風、寒、湿を取り除く生薬を中心とした漢方薬を使用することによって痛みの改善を目指します。私たちが「移動する痛み」に対して、よく使用する生薬が羌活です。羌活は、体を温め、強力な発汗作用を持つ薬です。この作用によって風邪、湿邪を発散させ、関節部の流れを改善して痛みを鎮めます。羌活の基原は、Notopterygium incisum Ting ex H. T. Chang または Notopterygium forbesii Boissieu (Umbelliferae セリ科)の根茎および根で、根茎部が大きく、隆起した環紋が明瞭で、表面が暗褐色、断面の質が緊密で朱砂点(油管)が多く、中心部に菊花状の芯があり、香り高いものが良品とされます。

同様に、風、寒、湿を取り除き、体の痛みを鎮める力を持つ生薬が白芷です。白芷は、湿を強力に退け、関節痛、しびれ、むくみ、運動障害を改善します。白芷の基原は、ヨロイグサAngelica dahurica Bentham et Hooker filius ex Franchet et Savatier(Umbelliferae セリ科)の根で、香りが強く気味に富み、類白色を呈する新しいものが良品とされます。また、防風も使用機会の多い生薬です。防風は「全身を巡る」とされ、発散作用によって風邪を退け、体内の余分な水分を取り除くことによって湿邪を退散させて、体の痛みを鎮めます。体を温める作用が穏やかで発汗作用が強すぎず、「風薬中の潤剤」と称されます。防風の基原は、Saposhnikovia divaricata Schischkin(Umbelliferae セリ科)の根及び根茎で、横切面の中心部が淡黄色で、質が充実し、潤いがあって香気強く新鮮なものが良品とされます。私たちは、このような良質の生薬に相性の良い様々な生薬を組み合わせた漢方薬を用いて線維筋痛症の「移動する痛み」への対策を行います。

メディカルアロマシャワーで移動する痛みを鎮める

また、脳への迅速なアプローチという点においてメディカルアロマシャワーの存在は欠かせません。私たちは、慢性疼痛に対して、クローブ、ジュニパーベリー、パイン、グレープフルーツ、オレンジスイートなどの精油を使用する機会が多くあります。それは、これらの精油に含有する成分が神経障害性疼痛に対して大きな効果をもたらすという報告があるためです。精油の香り分子は嗅覚受容体に結合し、電気信号として瞬時に脳へと伝わります。脳内の神経ネットワークは複雑に張り巡らされているため、仮に一部の回路に障害があったとしても、香り分子の情報は別の回路を辿って迅速に伝達されるといわれます。そして、精油の吸収には皮膚を介する経路も存在します。炎症を鎮めるためには、皮膚からの吸収が有効といわれます。このふたつの経路を通じ、精油の効果を遺憾なく発揮するのがメディカルアロマシャワーです。

慢性疼痛と脳との関係が最新科学で明らかに

慢性疼痛について、 国際疼痛学会(IASP)では治療に要すると期待される時間の枠を超えて持続する痛み、あるいは進行性の非がん性疼痛に基づく痛みとされていますが、通常、痛みの原因になったケガや病気がなくなった後も痛みが3カ月以上続いたり、痛みが数カ月から数年にわたって再発したり消えたりする状態をいいます。また、慢性疾患(線維筋痛症、関節炎、糖尿病など)または治らないケガに痛みを伴う状態も慢性疼痛に含まれます。慢性疼痛に付随して疲労を感じることも多く、睡眠障害、食欲減退、味覚減退、体重減少などもみられます。また、便秘になったり、性欲が減退したりすることもあります。痛みが持続することによって、抑うつ状態に陥り、不安を感じ易くなる傾向があります。今まで行っていた活動を止めて家に引きこもり、体のことばかりを気にすることが多くなるといわれます。

これまで慢性疼痛が生じる理由は明らかにされてきませんでしたが、近年の研究によって、そのメカニズムが徐々に解明されつつあります。慢性疼痛にはアストロサイトという細胞が深く関わっているといいます。慢性疼痛の病態では、痛みや触った感覚を感知する大脳皮質のアストロサイトに異常が生じ、わずかな刺激に対しても過剰な反応を示すようになるというのです。この発見は、マウスの脳内にある神経回路を生きたまま長期間観察できる特殊な顕微鏡技術を用いることによって可能となりました。アストロサイトは、神経細胞に栄養を与えたり、過剰なイオンや神経伝達物質を速やかに取り除いたりすることによって神経細胞が正常に働けるような環境づくりをしている細胞ですが、その他にも脳で生じたゴミを捨てるという大切な役割を担っています。1日に約7gずつ生じるという脳のゴミは、静脈へ流れ込む脳脊髄液(のうせきずいえき)中に排泄されますが、この流れが滞ると体に様々な不具合が起きるといわれます。これを改善する方法として考え出されたのが頭蓋仙骨療法(とうがいせんこつりょうほう)です。手指で頭部を優しく刺激することによって、乱れた脳脊髄液の流れを正常化し、体のコンディションを整えます。

漢方薬、メディカルアロマシャワー、頭蓋仙骨療法、温泉療法の融合

鳥取県の三朝温泉、秋田県の玉川温泉という療養泉の天然鉱石も慢性疼痛を鎮める効果が高いのではないかと考えられます。事実、これらの温泉の効能効果には、それぞれ「痛みの緩和」「神経系疾患」が挙げられています。私たちは、この天然鉱石を漢方薬、メディカルアロマシャワー、頭蓋仙骨療法と融合し、メディカルアロマ頭部浴・脚部浴という手法によって線維筋痛症の痛みの改善に取り組んでいます。ひとりでも多くの方が日々の痛みから解放されることを切にお祈りしています。