線維筋痛症を総合的にチェックすることによって見えてくるもの

線維筋痛症(Fibromyalgia:FM)は、全身の疼痛を主症状として、不眠や全身の疲労感、種々の精神神経症状を伴い、さらに口腔内乾燥感、ドライアイなどのシェーグレン症候群様の症状に加え、過敏性腸症候群や膀胱炎といった多彩な症状を呈する疾患です。中高年の女性を中心として発症し、痛みは主に体幹部や肩関節から始まり、徐々に全身の筋や関節などの結合組織に広範囲に広がっていくといわれます。厚生労働省が2004年に実施した全国疫学調査によると、日本人の1.66%、約200万人が線維筋痛症の患者であると推定されています。線維筋痛症は直接的な死因となる疾患ではありませんが、生活の質(QualityofLife:QOL)に与える影響は極めて大きく、線維筋痛症の疾患活動性や治療の評価においては、適切なチェックツールを使用し、痛みだけでなく、多様な症状や障害を総合的に評価することが重要だといわれます。また、線維筋痛症は神経障害性疼痛との共通点も多く、このふたつの疾患をチェックツールで比較することによって治療に有効な情報が得られるかもしれません。そこで、この類似性を比較検討した研究を見ていくことにします。
チェックツールと研究対象

使用されたチェックツールは、FIQ (Fibromyalgia Impact Questionnaire)、BDS (The Beck Depression Scale)、VAS (a 10-cm Visual Analog Scale)、LANSS (a Leeds Assessment of Neuropathic Symptoms and Signs)、a painDETECT scaleの5種です。この研究の対象は、2010年8月から2012年12月までにthe Dokuz Eylül大学医学部病院理学療法およびリハビリテーション科の外来クリニックを受診し、1990 American American College of Rheumatology診断基準にしたがって線維筋痛症と診断された18〜65歳の女性患者99人です。糖尿病または神経障害性疼痛を引き起こす可能性のある甲状腺機能障害と診断された患者、過去に頸椎椎間板障害と診断された患者、過去6か月以内に抗うつ薬または抗てんかん薬による治療を受けた患者は除外しました。患者の年齢、身長、体重、体格指数(BMI)、職業、教育および配偶者の有無、症状の持続時間、症状の特徴(しびれ、灼熱感、刺痛、朝のこわばり、不眠、疲労および衰弱など)の統計を取り、データとして記録しました。
研究結果から見えてくるもの

線維筋痛症になりやすい職業
平均体重、身長、BMI、教育レベル、配偶者の有無に線維筋痛症患者群と対照群との間で有意差はなかった(p> 0.05)。線維筋痛症患者群の平均年齢は対照群よりも有意に低く(p <0.05)、線維筋痛症患者群の症状の持続時間は対照群よりも有意に短かった(p <0.05)。主婦の比率は線維筋痛症患者群で有意に高かったが、労働者と退職者の比率は対照群で有意に高かった(p <0.001)。職業に関してグループを比較すると、線維筋痛症患者群には、既婚者、主婦、自営業者、学生の数が有意に多く(p <0.001)、対照群では、公務員、労働者、退職者の数が対照群よりも有意に多かった(p <0.001)。
安静時に痛みが発生しやすい線維筋痛症

症状の評価では、しびれ、灼熱感、刺痛、朝のこわばり、不眠症、疲労感、脱力感の訴えが対照群よりも線維筋痛症患者群で有意に多かった(p <0.001)。安静時、夜間および運動痛のVASスコアの比較により、安静時疼痛のVASスコアは対照群よりも線維筋痛症患者群で有意に高かったが、運動痛のVASスコアは線維筋痛症患者群と比較して対照群で有意に高かった(p <0.05)。夜間VASスコアの比較により、2つのグループ間に有意差は認められなかった(p> 0.05)。
BDS、FIQ、a painDETECT scale、LANSSの平均スコアは、対照群よりも線維筋痛症患者群で有意に高く(p <0.05)、線維筋痛症患者群ではFIQとLANSS間、FIQとBDS間、FIQとa painDETECT scale間で統計的に有意な相関が認められた(p <0.001)(r = 0.424、r = 0.524、r = 0.441)。線維筋痛症患者群で症状の持続時間とLANSS間に有意な相関が認められたが、症状の持続時間とFIQ、a painDETECT scale、BDS間には有意な相関は認められなかった。
チェックツールからわかる線維筋痛症と神経障害性疼痛との類似点

FIQ、LANSS、painDETECTスケールの平均スコアの比較は、対照群と比較して線維筋痛症患者のスコアが有意に高いことを示しました。さらに、FIQ値とLANSSスコアとの間には、痛みの重症度に関して有意な相関が認められ、線維筋痛症の病因には神経障害性疼痛が関係しているのではないかと考えられます。この研究は、チェックツールを使用して、麻痺、刺痛、アロディニアなどの感覚症状が対照群よりも線維筋痛症患者で有意に高いことを実証し、線維筋痛症における重要な要素としての神経障害性疼痛の役割を示唆しました。線維筋痛症を神経障害性疼痛とみなすべきかどうかを判断する上においては、今後さらなる研究を実施する必要があると考えられます。
薬剤師・美容師の資格を所有しています。幼少時より自然食品を中心とした生活を送る中で食事の大切さを学び、その後、漢方薬を学びました。日々、苦痛が少なく効果が大きい健康法の開拓に努めています。