線維筋痛症の精神症状に効く漢方「香附子」とアロマ成分「ノビレチン」

線維筋痛症は中年期以降の女性に多く発症し、筋骨格系の慢性痛があるものの、画像診断等では特異的な異常所見が明らかにされない疾患です。この疾患は、痛みとともに様々な精神症状を呈するという特徴を持ちます。この精神症状に対して高い効果を示すといわれる香附子とノビレチンという物質がありますが、これらの物質は、どのような仕組みによって線維筋痛症の患者の精神症状を解決に導くのでしょうか?
痛みが引き起こす悪循環

線維筋痛症を発症する背景として、手術や事故などによる身体的外傷、天候などの物理的環境、対人関係をはじめとする心理社会的要因が問題になることが多いといわれます。線維筋痛症が長期化すると日常生活動作(activities of daily living:ADL)や生活の質(quality of life:QOL)が著しく低下し、身体症状とともに強度の心理的負担を強いられることから、難治性の慢性疾患と認識されています。線維筋痛症の症状は数年にわたって一進一退を繰り返すため、仕事や日常生活に大きな影響を及ぼします。また、痛み以外にも睡眠障害、抑うつ気分、不安、焦燥感、集中力低下、健忘、軽度の意識障害などの症状を併せ持つという報告があります。日本では欧米症例に比べて、疲労感、抑うつ気分、頭痛、不安の出現頻度が高いといわれます。なかでも、抑うつ気分との関連性は高く、痛みが意欲を低下させて抑うつ気分を引き起こし、その抑うつ気分が痛みに対する感受性を高め、さらに痛みが強く感じられるという悪循環に陥ります。
気の巡りを改善する生薬「香附子」を含有する漢方の力

漢方では、抑うつ気分や不安などの精神症状は気の流れによる影響が大きいと考えられています。人は精神的ストレスを引き起こすストレッサーに曝されたとき、気の流れを高めることによって精神の安定を図ろうとします。気の流れが滞ると、ストレスに対抗することができなくなり、悲しみや怒り、あるいは物事を深く考えすぎたりするという精神症状が出現するようになります。また、気の滞りは、体の張り、痛み、痞塞感を引き起こすこともあります。このように気の滞りや精神症状が出現した時、私たちは香附子を含有する漢方を使用することがあります。香附子は気の巡りを良くするという効果を持ち、自律神経の正常化を図り、抑うつ気分や不安などの精神症状を改善する他、鎮痛作用も有します。香附子の基原は、ハマスゲ Cyperus rotundus Linné (Cyperaceae カヤツリグサ科)の根茎で、通常、外皮が除かれ、粒が大きく肥厚し、色は白紅色~紫紅色で光潤し、質は堅く充実し、香りが濃厚なものを良品とします。中国の本草学史上において、分量がもっとも多く、内容がもっとも充実した薬学著作といわれる「本草綱目」には、香附子を使用した漢方として48処方が掲載されています。その内容は、気と血(婦人病)に関する処方が最も多く、次いで止痛の処方が多く記載されています。また、歯や耳の病に関するものもあり、幅広い薬効を持つ生薬として使用されていたことがわかります。現在の漢方でも理気薬に分類され、理気解鬱、調経止痛を目的として用いられます。各器官の気の滞りが病気の大きな原因のひとつであるとすれば、気を巡らせる働きを持つ香附子は非常に優れた生薬のひとつであるということができます。
漢方とアロマが線維筋痛症の精神症状を解決に導く

アロマテラピーに使用されるエッセンシャルオイルも精神的ストレスに対して高い有効性を持つと考えられます。私たちは、抑うつ気分や不安などの精神症状にノビレチンという成分を含有するエッセンシャルオイルを使用することがあります。ノビレチンは脳の海馬という部分に働きかけ、神経伝達を活性化させるという研究報告があります。海馬は学習や記憶の形成に深く関係する器官ですが、ストレスによる影響を受けやすい部分であるともいわれています。人はストレスを感じるとストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールを分泌しますが、うつ病患者ではコルチゾールの濃度が高まり、これが神経を傷害して海馬を萎縮させることがわかっています。線維筋痛症の精神症状に対し、私たちは香附子やノビレチンなどを使用する漢方薬アロマタッチを行うことがあります。香附子は気の巡りを良くすることによって、抑うつ気分や不安などの精神症状を改善し、ノビレチンは脳の海馬に働きかけ、神経伝達を活性化させます。漢方薬アロマタッチは、これを体の中で最も浸透性の高い部位といわれる頭部から浸透させることによって、その効果を一層高いレベルへと引き上げます。さらに、脳におけるデトックスの役割を担う「グリンパティックシステム」を正常化するという頭蓋仙骨療法、湯治場として有名な三朝温泉・玉川温泉の効果の源といわれる天然鉱石などの力を借りて、症状の改善を目指します。
線維筋痛症の患者の心理的特徴をチェック
ここで、線維筋痛症の患者の心理的特徴を把握するために、心理尺度によるチェックを行ったという研究報告をご紹介いたします。

対象患者のチェック法
この研究の対象患者は、線維筋痛症の患者と線維筋痛症以外の慢性痛患者(以下、非線維筋痛症の患者)各20名(男性5名、女性15名)で、非線維筋痛症の患者群の原因疾患は、視床痛、帯状疱疹後神経痛、外傷後痛・手術後痛等のCRPS、脊椎疾患(椎間板ヘルニア・脊柱管狭窄症等)、頭痛等です。線維筋痛症の患者群は入院患者15名、外来患者5名で、非線維筋痛症の患者群は入院患者7名、外来患者13名です。また、線維筋痛症の患者群は非ステロイド性抗炎症薬、抗うつ薬、抗不安薬、抗痙攣薬を使用中で、非線維筋痛症の患者群は非ステロイド性抗炎症薬を中心に使用しています。精神面のチェックは、一般健康調査票(general health questionnaire:GHQ)の自己記入によって行われました。GHQは、病院や診療所の患者などに対して、精神的機能が健康的に維持できているかどうか、精神的マイナス用件が新たに出現していないかどうかを効率よくスクリーニングすることを目的として開発された評価法で、総合得点と、身体的症状、不安と不眠、社会的活動障害、うつ傾向の項目から精神的健康度が測定されます。
総合得点が13点以上の場合には臨床的に何らかの精神的症状を有すると判断され、各項目の重症度は、それぞれの得点によって判定することが可能です。線維筋痛症の患者群は精神科医によって抑うつ状態にあると診断されている状態で、抑うつの程度をより詳細に調べるためにハミルトンうつ病評価尺度(Hamilton’s rating scale for depression:HRSD)に基づく半構造化面接を実施しました。HRSDは21項目から構成され、うつ病の重症度を数値化するために使用される評価法です。また、半構造化面接とは、決められた質問の枠組みを守りながらも、患者の回答や反応、個々の状況等に応じて、質問の内容や表現、質問する順序等の面接の細部を柔軟に変化させて対応する方法です。この方法は、面接の目的に沿う方向性を保ちつつ、面接の細部に関しては自由度を持つため、あらかじめ定められた項目と順序にしたがった質問をするだけの構造化面接では得られない情報を入手することができるという利点を持ちます。痛みの程度は視覚アナログスケール(visual analogue scale:VAS)により評価しました。
チェック結果から読み取れる精神症状へのアプローチの大切さ
GHQ総合得点ならびに全ての項目の得点において、非線維筋痛症の患者群よりも線維筋痛症の患者群のほうが有意に高い結果を示しました。また、線維筋痛症の患者群に実施したHRSD得点による重症度の分布は、重度4名(20%)・中等度11名(55%)・軽度5名(25%)で、中等度の抑うつ状態を呈していたことがわかります。VASにおける痛みの強度評価は、線維筋痛症の患者群84.1±16.7、非線維筋痛症の患者群68.8±25.1で、線維筋痛症の患者群のほうが有意に高いことがわかりました。このチェック結果から、線維筋痛症の患者群は、非線維筋痛症の患者群に比べて精神的健康度が明らかに低い状態にあり、全身の痛みや不眠という身体的な苦痛に加えて強度のうつ傾向を伴い、日常生活動作は著しく低下しているといえます。一方、非線維筋痛症の患者群のGHQ総合得点も区分点である13点を上回る結果であり、何らかの精神的症状を有することが示されました。また、身体的症状、不安と不眠、社会的活動障害の得点は軽度の位置にあり、うつ傾向の得点は軽度未満でしたが、健常者の平均に比べると、いずれも高得点であり、決して安定した状態とはいえません。
線維筋痛症の患者群のほうが有意に高得点になった背景として、日常生活動作、痛みの強度、入院患者数の違いが考えられます。日常生活動作に関しては、線維筋痛症の患者群では仕事や日常生活が困難な重症例が多かったのに比べて、非線維筋痛症の患者群は電気痙攣療法予定患者4名を除き、日常生活がある程度は保たれた状態でした。VASの結果より、痛みの強度は線維筋痛症の患者群が非線維筋痛症の患者群に対して有意に高いことがわかりました。また、重症度が高い入院患者数を比較すると、線維筋痛症の患者で15名、非線維筋痛症の患者で7名でした。今回のチェック結果から線維筋痛症における精神的健康度の低さが明らかになり、痛みの治療だけではなく精神症状に対して適切なアプローチを行うことが、線維筋痛症の治療における重要なポイントになると考えられます。
薬剤師・美容師の資格を所有しています。幼少時より自然食品を中心とした生活を送る中で食事の大切さを学び、その後、漢方薬を学びました。日々、苦痛が少なく効果が大きい健康法の開拓に努めています。