チェックツールによる線維筋痛症の評価

線維筋痛症は広範囲におよぶ体の痛みを特徴とし、一般的な臨床検査では異常が見つからない慢性疾患です。症状が進行すると仕事にも支障をきたし、生活の質の低下をも招くといわれます。これに似たような疾患に神経障害性疼痛があります。そこで、このふたつの疾患の関係性を複数のチェックツールを用いて調査したという報告があります。
チェックツールを用いて線維筋痛症を評価する理由

線維筋痛症患者の多くは慢性的な広範囲におよぶ体の痛みに伴い、睡眠障害、疲労、こわばり、しびれ、抑うつ、ドライアイ、過敏性腸症候群、月経困難症、動悸、認知症などの症状を発症するといわれます。このようなことから、線維筋痛症を引き起こす要因はひとつではなく、多くの要因が関係しているのではないかという意見が多くの研究者に支持されています。また、線維筋痛症は中枢性過敏症候群を頻繁に併発するといわれます。この際、痛みの伝達に深い関わりを持つ神経伝達物質であるグルタミン酸、サブスタンスPの濃度は上昇し、抗侵害受容性神経伝達物質であるノルアドレナリン、セロトニン、ドーパミンなどの濃度は低下します。さらに、神経障害性疼痛の特徴である異所性放電(感覚受容器の興奮を介せずに神経切断端などで発生するスパイク放電)、末梢感作、Aβ線維の再構築などに加え、痛覚過敏、アロディニアの併発は、線維筋痛症と神経障害性疼痛との関連性を示唆していいます。

ここ最近の線維筋痛症患者の痛みに対する感受性の増加は、中枢神経系の変化と中枢感作に関係があると考えるのが一般的になってきています。健康状態では痛みを生じない程度の刺激が、線維筋痛症患者では痛みを誘発することも明らかにされています。さらに、線維筋痛症が末梢感作、中枢感作、ワインドアップ現象、応答抑制の低下、交感神経系の活性化、および中枢神経系の再編成に関連していることを示す報告もあります。また、神経障害性疼痛に使用される治療法が線維筋痛症患者にも有効性を示すことから、線維筋痛症は神経障害性疼痛に属するのではないかという意見もあります。さらに、線維筋痛症患者に神経障害性疼痛チェックツールを使用したところ、有意に肯定的な結果を示したと評価する研究もいくつかあります。最近行われた研究によると、線維筋痛症で生じる小径線維ニューロパチーの頻度の高さが神経障害性疼痛との関連性の深さを物語っているという意見も広まっているようです。

異常な側頭痛、神経内分泌異常、脳の関連痛領域における異常な活性化などの存在だけでなく、線維筋痛症と診断された大多数の患者が神経障害性疼痛の典型的な兆候である刺痛、しびれ、灼熱感、痛覚過敏などを示すことは、中枢性疼痛に関するデータを一層強化しました。ただし、この問題をさらに明確にするには大規模な研究が必要です。というのは、神経障害疼痛チェックツールを使用する前の研究では、方法論とサンプル数ともに不足していたためです。そこで、神経障害性疼痛チェックツールを用いて、線維筋痛症が神経障害性疼痛の症状を示すかどうかを調査するのが、この研究の目的です。
調査方法

この研究の対象は、2010年8月から2012年12月までにthe Dokuz Eylül大学医学部病院理学療法およびリハビリテーション科の外来クリニックを受診し、1990 American College of Rheumatology診断基準にしたがって線維筋痛症と診断された18〜65歳の女性患者99人です。糖尿病または神経障害性疼痛を引き起こす可能性のある甲状腺機能障害と診断された患者、過去に頸椎椎間板障害と診断された患者、過去6か月以内に抗うつ薬または抗てんかん薬による治療を受けた患者は除外しました。
患者の年齢、身長、体重、体格指数(BMI)、職業、教育および配偶者の有無、症状の持続時間、症状の特徴(しびれ、灼熱感、刺痛、朝のこわばり、不眠、疲労および衰弱など)の統計を取り、データとして記録しました。このデータに基づき、次のようなチェックを行いました。
FIQ (Fibromyalgia Impact Questionnaire) | 1週間の痛みが日常生活や社会生活、情緒状態、仕事に対して与えた影響をレベル別に評価 |
BDS (The Beck Depression Scale) | 感情の状態を評価 |
VAS (a 10-cm Visual Analog Scale) | 痛みの評価 |
LANSS (a Leeds Assessment of Neuropathic Symptoms and Signs) | 疼痛アンケート |
a painDETECT scale | 神経障害性疼痛の評価 |
対照群 : 肩峰下インピンジメント症候群と診断された18〜65歳の女性患者86人
チェックツールによる調査結果
平均体重、身長、BMI、教育レベル、配偶者の有無に線維筋痛症患者群と対照群との間で有意差はなかった(p> 0.05)。線維筋痛症患者群の平均年齢は対照群よりも有意に低く(p <0.05)、線維筋痛症患者群の症状の持続時間は対照群よりも有意に短かった(p <0.05)。主婦の比率は線維筋痛症患者群で有意に高かったが、労働者と退職者の比率は対照群で有意に高かった(p <0.001)。職業に関してグループを比較すると、線維筋痛症患者群には、既婚者、主婦、自営業者、学生の数が有意に多く(p <0.001)、対照群では、公務員、労働者、退職者の数が対照群よりも有意に多かった(p <0.001)。
症状の評価では、しびれ、灼熱感、刺痛、朝のこわばり、不眠症、疲労感、脱力感の訴えが対照群よりも線維筋痛症患者群で有意に多かった(p <0.001)。安静時、夜間および運動痛のVASスコアの比較により、安静時疼痛のVASスコアは対照群よりも線維筋痛症患者群で有意に高かったが、運動痛のVASスコアは線維筋痛症患者群と比較して対照群で有意に高かった(p <0.05)。夜間VASスコアの比較により、2つのグループ間に有意差は認められなかった(p> 0.05)。
BDS、FIQ、a painDETECT scale、LANSSの平均スコアは、対照群よりも線維筋痛症患者群で有意に高く(p <0.05)、線維筋痛症患者群ではFIQとLANSS間、FIQとBDS間、FIQとa painDETECT scale間で統計的に有意な相関が認められた(p <0.001)(r = 0.424、r = 0.524、r = 0.441)。線維筋痛症患者群で症状の持続時間とLANSS間に有意な相関が認められたが、症状の持続時間とFIQ、a painDETECT scale、BDS間には有意な相関は認められなかった。
線維筋痛症に関する過去の研究

文献によると、過去の研究においても神経障害性疼痛と線維筋痛症との関係性を実証したものがあります。2003年のMartinez-Lavinらの研究では、VAS、LANSSによる線維筋痛症患者20人および関節リウマチ患者20人の回答を比較しました。VASでは同等レベルの疼痛を有していましたが、LANSSでは線維筋痛症患者で著しく高い疼痛スコアが示されました。
2009年のGiskeらが行った研究では、the McGill pain scale、LANSS、FIQ、emotional distress testsに基づき、局所および広範囲の筋骨格痛を有する98人の患者において神経障害性疼痛の発生率を評価しました。この研究における患者の平均LANSSスコアは6.9でしたが、13%の症例では12を超えるLANSSスコアが確認されました。線維筋痛症の患者の平均LANSSスコアは、限局性頸部痛患者群以外のグループの平均スコアよりも有意に高いという結果が出ました。さらに、LANSSスコアの高さは、痛みの重症度、痛みの持続時間、うつ病と相関することがわかりました。
2006年から2008年にかけてGauffinらによって行われた研究は、理学療法とリハビリテーションの外来診療所に紹介された18〜65歳の線維筋痛症患者158人を対象として行われました。患者はpainDETECT、BDS、FIQで評価され、158人の線維筋痛症患者のうち53人(34%)が神経障害性疼痛を有していました。その中で、16人は「明確に神経障害性疼痛を有する」、30人は「神経障害性疼痛の可能性あり」、7人は「潜在的に神経障害性を有する」と分類されました。painDETECTの平均スコアは、神経障害性疼痛グループの方が神経障害性疼痛のない患者よりも有意に高いことがわかりました。同様に、この研究に参加した線維筋痛症患者は、対象群に比べて著しく高いpainDETECTスコアを示しました。 線維筋痛症患者において、このように高い感覚障害の発生率を示すことから、「線維筋痛症は神経障害性疼痛の要素を持っているのではないか」という仮説が支持されます。
Pamukらが実施した研究では、150人の線維筋痛症患者と42人の痛点基準を認識していない慢性痛患者を対象にして、痛みの重症度と線維筋痛症の関連症状をVASによって評価しました。さらに、a Duke Anxiety-Depression Scale、a somatization symptom test、a LANSS testでも評価しました。この結果、VASに基づいた疼痛は睡眠障害と密接な関係があり、DukeとLANSSの平均スコアは慢性痛患者よりも線維筋痛症患者で高い数値を示しました。痛点の数は、痛みの重症度、身体化障害の症状数、睡眠障害、LANSSスコアと相関することがわかりました。痛みの重症度とLANSSスコアによって、11以上の痛点の存在が明らかにされました。また、線維筋痛症患者と慢性痛患者は類似症状を有しますが、線維筋痛症患者は、より重症度の高い症状を訴えます。神経障害性疼痛スコアは、痛点基準に関する慢性痛患者の適性を見極めるための重要な要素であり、これによって線維筋痛症と神経障害性疼痛との関係性が支持されます。ただし、この研究では痛点の数と神経障害性疼痛との関連性についての評価は行われていません。
Koroschetzらによる2011年に行われた研究では、線維筋痛症患者と糖尿病性多発神経障害の診断を受けた患者の感覚症状の類似点と相違点が比較されました。この研究を行う目的は、1,434人の線維筋痛症患者と1,623人の糖尿病性多発神経障害患者を対象として、同じ感覚症状は同じメカニズムによって引き起こされることを証明することです。対象患者にはOutcomes Study sleep scale、SF-36、painDETECT scalesを行いました。その結果、睡眠障害とうつ病は、線維筋痛症患者の間で一般的に起こるものであることが判明しました。一方、灼熱感、うずき、アロディニアが頻繁に起きるという点に関しては、すべての患者が異口同音に感覚症状を記述し、2つのグループ間における類似がみられます。ただし、線維筋痛症患者では、主として軽度の感覚症状を持つという側面がみられ、糖尿病性多発神経障害患者では、主として認識力が低下しているという側面がみられました。この研究によって、線維筋痛症患者と糖尿病性多発神経障害患者は似たような感覚症状を経験することが結論付けられ
チェックツールによる線維筋痛症の評価

この度の研究におけるFIQ、LANSS、painDETECTスケールの平均スコアの比較は、対照群と比較して線維筋痛症患者のスコアが有意に高いことを示し、これは過去の文献とも一致しています。さらに、FIQ値とLANSSスコアとの間には、痛みの重症度に関して有意な相関が認められ、線維筋痛症の病因には神経障害性疼痛が関係しているのではないかと考えられます。
線維筋痛症はアロディニアと感覚異常を伴う症候群であり、痛みが刺激とは関係なく発生するという事実から、線維筋痛症は神経障害性疼痛の要素を持つのではないかと考えられます。また、 感覚異常を生じる数は、リウマチ患者よりも線維筋痛症患者の方が多く、しびれや刺痛も線維筋痛症患者の最大84%で認められています。この度の研究で、これらの割合は、それぞれ80.8%および82.8%であることが示され、双方ともに対照群よりも有意に高いという結果が出ました。さらに、線維筋痛症患者に生じる小径線維ニューロパチーの対照研究も次第に増え、線維筋痛症は神経障害性疼痛とみなすことができるという意見が強くなってきています。Uceylerらが行った研究では、25人の線維筋痛症患者で小神経線維の機能低下と神経伝達の減少が報告され、Oaklanderらによる線維筋痛症患者と対照群とを比較した研究では、皮膚生検で線維筋痛症患者の41%で小径線維ニューロパチーの所見を示しました。
同様に、20人の線維筋痛症患者を対象とした研究では、6人の患者の皮膚生検で表皮の神経線維強度の低下と小径線維の関与が示され、Kosmidisらの46人の線維筋痛症患者と34人の対照群の比較研究では、30人の線維筋痛症患者に付随疾患はありませんでしたが、その他16人の患者にはリウマチやクローン病などの異なる自己免疫疾患の診断を受けたという報告がありました。その研究では、すべての患者が皮膚生検と免疫学的検査を受け、付随疾患のない30人の線維筋痛症患者のうち26.6%が表皮内神経線維の強度を低下させ、さらに43.7%で自己免疫障害が認められました。 対照群を線維筋痛症患者と比較すると、表皮内神経線維強度の減少は34%でした。 著者らは、小径線維ニューロパチーは神経炎症性伝達物質により引き起こされたと結論付けました。
過去の研究において線維筋痛症患者に見られたpainDETECTスコアの上昇は、線維筋痛症の原因が侵害受容性疼痛だけではないという仮説を支持しています。元々、painDETECTスコアは神経障害性疼痛を評価するために開発されたもので、線維筋痛症患者に対する妥当性と信頼性はまだ実証されていません。この点で、ふたつの症候群が中枢感作などの類似のメカニズムの活性化を持ち、これらのメカニズムが類似する症状の発生の影響を受けている可能性はありますが、painDETECTスコアに基づいて線維筋痛症を単純に神経障害性疼痛に分類することは正確ではないのかもしれません。さらに、自己申告のテスト結果は、アンケート記入時の患者の気分によって影響を受ける可能性がありますが、これは自己申告チェックツールに基づくすべての研究における限界です。この研究には、他にも患者群における小径線維ニューロパチーの存在に関する調査が実施されなかったという欠如がありますが、最近実施された研究で線維筋痛症と小径線維ニューロパチーとの関係が実証され、神経障害性疼痛と線維筋痛症との関係が支持されています。
この研究は神経障害性疼痛を評価するために開発されたチェックツールを使用し、麻痺、刺痛、アロディニアなどの感覚症状が対照群よりも線維筋痛症患者で有意に高いことを実証し、線維筋痛症における重要な要素としての神経障害性疼痛の役割を示唆しました。線維筋痛症を神経障害性疼痛とみなすべきかどうかを判断する上において、今後さらなる研究を実施することが必要であると考えられます。
薬剤師・美容師の資格を所有しています。幼少時より自然食品を中心とした生活を送る中で食事の大切さを学び、その後、漢方薬を学びました。日々、苦痛が少なく効果が大きい健康法の開拓に努めています。