認知症の原因と対策!物忘れの秘策「漢方薬アロマタッチ」とは…
高齢化社会が進む中で深刻化している認知症。この病気は、どのような原因によって発症するのでしょうか?ここでは、アルツハイマー型認知症の原因を巡る様々な仮説をご紹介するとともに、「物忘れが治った」という経験を踏まえて、その予防・治療に大きな効果が期待される「漢方薬アロマタッチ」のメカニズムに鋭く迫ります。現在、認知症の中で最も多く発症するのがアルツハイマー型認知症です。そこで、アルツハイマー型認知症のことをここでは認知症と記述することにします。
- 1. 認知症の原因?「アセチルコリン」の減少
- 2. アセチルコリン濃度の減少を防ぐ!
- 3. 認知症の原因…その他の仮説
- 4. 認知症の治療薬
- 5. アセチルコリンは記憶の形成に重要な物質
- 6. 漢方薬アロマタッチとアセチルコリンとの深い関係
- 7. 重度認知症からの回復!日常会話やパソコンを使いこなせるようになるまで
- 8. 物忘れを自覚しないときの対策「白髪染めに行きましょう!」
- 9. 物忘れの予防に!脳にゆとりを生む「漢方薬アロマタッチ」
- 10. 認知症の治療薬「メマンチン(メマリー)」
- 11. 認知症の新薬、臨床試験が相次いで失敗
- 12. 認知症は、ゆっくりと脳が委縮する病気
- 13. 認知症の症状の初期
- 14. 認知症の中核症状
認知症の原因?「アセチルコリン」の減少
1970年代後半、認知症の脳では「アセチルコリン」という物質が減少していることが発見されました。アセチルコリンは神経細胞の興奮や抑制を他の神経細胞に伝達する物質で、記憶に関わる大切な物質です。現在、認知症に対して病院で処方される治療薬もアセチルコリンに関係するものが中心となっています。そして、1980年代に入り、認知症の脳では、脳の深い部分でアセチルコリンを作る神経細胞が減少していることがわかり、これが認知症の原因であるといわれるようになりました。そこで、脳内で減少したアセチルコリンを薬として直接補充すれば、認知症を治療することが可能になるのではないかと考えられました。しかし、脳には特別なバリアが備わっていて、脳内に入ることができる物質は限られています。アセチルコリンは、このバリアを通過することができません。そこで考え出されたのが、脳内にあるアセチルコリンの減少を防ぐという手法です。
アセチルコリン濃度の減少を防ぐ!
神経細胞で作られたアセチルコリンは、他の神経細胞に情報を伝達し終えると速やかに分解され、再び神経細胞内に取り込まれます。通常は、この過程を繰り返し、アセチルコリンは一定量を保っているのですが、認知症によって神経細胞が死滅すると、神経細胞によって作られるアセチルコリンの量も減少してきます。アセチルコリンを外から入れて補いたいところですが、脳に備え付けられたバリアによって阻まれてしまいます。そこで、本来ならば情報伝達を終えて分解されるはずのアセチルコリンの分解を阻害し、アセチルコリン濃度の減少を防ごうとするのが現代医療で中心となっている治療法です。これによって、認知症の進行を遅らせる可能性があるといいます。
認知症の原因…その他の仮説
アセチルコリン仮説の他にも、様々な仮説が唱えられています。これらの仮説を丁寧に見ていくことにしましょう。
認知症の原因「アミロイドカスケード仮説」
認知症では、脳内にアミロイドβと呼ばれるタンパク質が長年にわたって徐々に蓄積し、老人斑と呼ばれるアミロイドβの凝集体が作られます。アミロイドβは認知症状が現れる前から脳に蓄積し始めます。アミロイドカスケード仮説では、このアミロイドβの蓄積が神経細胞死や脳の萎縮を招くと考えています。アミロイドβは、その前駆体タンパク質であるAPPが2段階の切断を受けて生じることはわかっているのですが、その後の蓄積過程の詳細はわかっていません。
アミロイドβとは
アミロイドβ(アミロイドベータ)は、認知症の患者の脳に見られるアミロイド斑(アミロイド:ある特定の構造を持つ水に溶けない繊維状のタンパク質で、器官へのアミロイドの異常な蓄積はアミロイド症などの神経変性疾患の発症原因になるといわれています。)の主成分として、認知症との関係性が疑われている36–43アミノ酸のペプチド(ペプチド:アミノ酸をモノマーとしてペプチド結合により短い鎖状につながった分子の総称)です。このペプチドはアミロイド前駆体タンパク質に由来し、β-セクレターゼとγ-セクレターゼ(セクレターゼ:タンパク質を分解する酵素の一種)による切断によって産生されます。アミロイドβ分子は凝集し、いくつかの形態の柔軟な可溶性のオリゴマー(オリゴマー:分子量が1万以下の低重合体)を形成します。現在のところ、特定の誤ったフォールディング(ミスフォールディング)をしたオリゴマーが他のアミロイドβ分子のミスフォールドを誘導し、プリオン(プリオン:タンパク質から成る感染性因子)の感染と類似した連鎖反応が引き起こされると考えられています。このオリゴマーは神経細胞に対する毒性があり、認知症への関与が示唆されるタウタンパク質も同様にプリオン様のミスフォールドオリゴマーを形成し、ミスフォールドしたアミロイドβがタウのミスフォールドを誘導するともいわれています。
アミロイドβが細胞膜表面で凝集しやすい理由
タンパク質は濃度が高くなると凝集し、オリゴマーという球状の物質やアミロイド線維という針状の物質を形成することがあります。これらのタンパク質凝集体は30種類以上の病気の原因であるともいわれ、認知症ではアミロイドβが凝集してできたオリゴマーやアミロイド線維の脳における蓄積が多くみられるといわれます。また、アミロイドβの凝集は神経細胞の膜表面のような親水性・疎水性界面で促進されることが知られています。アミロイドβは水に溶けやすい親水性アミノ酸残基と油に溶けやすい疎水性アミノ酸残基の両方を持っているため、細胞膜表面のような親水性・疎水性界面に存在する方が安定します。さらに、アミロイドβは疎水性アミノ酸残基の多い範囲が2ヶ所(β1領域といわれる13-20番目のアミノ酸残基とβ2領域といわれる31-36番目のアミノ酸残基)ありますが、細胞膜表面ではβ1領域とβ2領域の間ではβヘアピン構造(ヘアピン構造:ひとつのタンパク質がヘアピン状に曲がって分子内水素結合を作ることにより安定している構造)を水中よりも多くとることがわかっています。βヘアピン構造はアミロイドβの一部分がまっすぐに伸び、その間で水素結合を作っています。まっすぐに伸びた部分は近くに来た別のアミロイドβペプチドとも分子間水素結合を作りやすく、アミロイドβ同士が強く引き合って並びます。これが次々とつながって大きな塊になるため凝集しやすいのです。このように、細胞膜表面にはアミロイドβが集まりやすいだけではなく、アミロイドβが互いに結合しやすい構造をとっていることが細胞膜表面においてアミロイドβの凝集が促進される理由です。
認知症の原因「グルタミン酸仮説」
グルタミン酸仮説は、脳内における興奮性の神経伝達物質であるグルタミン酸を認知症の原因物質とする仮説です。認知症では、神経接続部でグルタミン酸の濃度が持続的に上昇し、グルタミン酸受容体のひとつであるNMDA受容体が持続的に活性化されて電気シグナルが発生し続けます。この状態に陥ると、記憶を形成する神経伝達シグナルが隠されてしまうため、記憶や学習機能がダメージを受けるといわれます。また、NMDA受容体はカルシウムチャネルと連動しているため、高濃度のグルタミン酸によって過剰な興奮が起こると細胞内にカルシウムイオンが大量に流入し、細胞死が引き起こされるのではないかとも考えられています。そこで、NMDA受容体を阻害すれば神経細胞の崩壊を抑制することができるのではないかという考えに基づいて作られた薬がメマリー(メマンチン)です。メマリーは、生理的な神経興奮によって生じる一過性の高濃度のグルタミン酸に対してはNMDA受容体から遊離して正常な神経伝達には影響を与えませんが、持続的な低濃度のグルタミン酸刺激に対しては、その神経興奮毒性に保護的に作用するのではないかと考えられています。
認知症の原因「オリゴマー仮説」
認知症は、アミロイドβというタンパク質が脳に蓄積し、認知機能(物忘れ)の低下を主症状とする神経変性疾患とされています。かつては、凝集した不溶性線維のアミロイドβが老人斑を形成し、これが神経細胞を変性させると考えられていましたが、最近では、凝集過程の中間体である可溶性のアミロイドβオリゴマー(重合体のうち比較的に重合度の低いもの)に強いシナプス(神経間の接合部)障害作用があり、これが原因となって認知機能が低下し、認知症を発症するのではないかという「オリゴマー仮説」が提唱されるようになりました。実験では、アミロイドβオリゴマーをラットの脳に注入したときに、シナプス機能障害や学習記憶障害を引き起こしたという報告があります。また実際に、認知症の脳では、アミロイドβオリゴマーが健常者よりも増加していることが観察されています。
認知症の原因「タウ仮説」
認知症の海馬や大脳新皮質では神経細胞脱落、老人斑、神経原線維変化が広範囲にみられます。老人斑の主要構成成分はアミロイドβ、神経原線維変化の主要構成成分はタウ蛋白というタンパク質です。これらの異常沈着物質がシナプス障害、神経細胞死、脳萎縮の原因になっている可能性があると考えられています。アミロイドβとタウ蛋白には深い関係性があり、アミロイドβがタンパクキナーゼを活性化することによってタウ蛋白の過剰リン酸化の原因を作る可能性が示唆されています。さらに、試験管レベルにおいては、アミロイドβはタウ蛋白と直接結合し、低濃度のアミロイドβオリゴマーがタウのオリゴマー化を誘発することが確認されています。これらのことから、体内におけるタウ蛋白の重合では、核の形成原因としてのみアミロイドβオリゴマーが関与し、その後はタウ蛋白が自己増殖的に重合していくのではないかということが推測されます。仮にこれが正しいとすると、アミロイドβを原因とした治験薬が失敗した原因を説明することができます。すなわち、治験対象となる認知症患者の脳では、すでにタウ病理が進行していてアミロイドβに依存することなくタウ蛋白が自己重合している状態であるため、アミロイドβを原因とした治験薬は効果を示さなかったと考えることができます。ラットにおける実験では、初代培養神経細胞にアミロイドβオリゴマーを添加して生じたタウ蛋白のリン酸化、カスパーゼ3の活性化、βカテニンの異常などといった病的変化が、アミロイドβオリゴマーを除去することによって回復することがわかっています。
タウ蛋白の機能
タウ蛋白(Tau protein)は中枢神経系と末梢神経系の神経細胞(ニューロン)やグリア細胞に発現しているタンパク質で、微小管結合タンパク質(Microtubule-associated protein; MAP)の一種として発見され、微小管の重合や安定化を調節しています。また、微小管以外にも様々なタンパク質と結合し、生後の脳の成熟、軸策輸送やそのシグナル伝達の調節、熱ストレスに対する細胞応答、成体での神経発生など、脳神経系で起こる様々な現象に関わっています。
認知症の原因「アルミニウム原因仮説」
アルミニウムイオンの摂取が認知症の原因のひとつであるとする仮説があります。第⼆次世界⼤戦後にグアム島を統治したアメリカ軍が、この島に住む⽼⼈が高確率で認知症を発症していることに気がつき、地下⽔の検査をしたところ、アルミニウムイオン濃度が⾮常に高いことがわかりました。そこで、水に含有するアルミニウムの多量摂取が認知症の原因なのではないかと考え、生活用水を⾬⽔と他島からの給⽔に切り替えたところ、認知症の数が激減したといいます。また、日本でも同じような事例があります。紀伊半島に、認知症患者の数が他の地域に比べて突出して多かった地域がありました。そこで、グアム島と同様に上⽔道を完備したところ、この問題が見事に解決したといいます。これらの事実がアルミニウム原因仮説の根拠とされています。アルミニウム原因仮説は、1996年3⽉15⽇の毎⽇新聞朝刊に掲載された記事によって広まったといわれます。その記事には、1976年にカナダのある病理学者が認知症患者の脳から健常者の数⼗倍に当たる濃度のアルミニウムを検出したこと、これまでは脳内には侵入しないとされていたアルミニウムイオンが⾎液脳関⾨を突破し、脳内に侵入する可能性があることなどが紹介されています。その後、読売新聞や朝⽇新聞なども同様の記事を掲載したことによって、アルミニウム原因仮説が⽇本国内で次第に有⼒視されるようになりました。
認知症の原因「インスリン分解酵素仮説」
インスリン分解酵素仮説では、インスリンの分泌を促す糖質中心の食習慣や運動不足、あるいは内臓脂肪過多がアミロイドβの分解を妨げているとしています。インスリン分解酵素は、インスリンの分解だけではなくアミロイドβも分解する能力も合わせ持ちます。このインスリン分解酵素が、糖質中心の食生活を送ることによって血中インスリンの分解に忙しくなり、本来存在するはずの脳内におけるインスリン分解酵素の濃度が低下し、アミロイドβの分解にまで手が回らなくなることが原因となって脳内にアミロイドβが蓄積されてしまうようになるのだといいます。インスリンは、脳内で増えすぎると神経細胞を障害し、物忘れを悪化させる原因になるといわれます。
認知症の原因「感染症原因仮説」
感染症原因仮説は、ウイルスや細菌などの微生物の感染が認知症を引き起こす原因だとする仮説です。まずは健常時に単純ヘルペスウイルス 1 型(HSV1)、クラミジア、スピロヘータの2種類の細菌が脳内に潜伏感染したとします。そして、老化に伴って免疫力が低下していくと、これまで潜在化していた病原微生物が活性化され、産生分泌される病原因子が原因となって脳に炎症を引き起こします。これによって、シナプス機能障害や神経細胞死が起こり、認知症を発症するのだといいます。また、認知症の脳組織では、新たに真菌細胞や真菌糸が検出されたという報告もあります。
認知症の治療薬
アセチルコリンは、コリンとアセチルCoAを原料として神経細胞で産生され、シナプス小胞という袋のような組織に蓄えられます。そして、必要に応じて他の神経細胞との隙間に放出され、情報を伝達しますが、その役目が終わるとアセチルコリンはコリンエステラーゼという分解酵素によって分解されます。そこで、この分解酵素の作用を阻害し、アセチルコリンの分解を防ぐことによってアセチルコリンの減少を軽減しようと考え出された薬がコリンエステラーゼ阻害薬です。現在、病院で処方される治療薬はコリンエステラーゼ阻害薬が中心となっています。
認知症の治療薬「ドネペジル(アリセプト)」
ドネペジルは、現在、病院で処方されるアルツハイマー型認知症の治療薬として中心的存在となっている薬です。アメリカのファイザー社と日本のエーザイ社によって共同開発され、アルツハイマー型認知症の治療薬として世界で最初に承認された薬です。ドネペジルは、アセチルコリンを分解する酵素であるコリンエステラーゼを可逆的に阻害することによって脳内のアセチルコリンの濃度を上げ、神経細胞の機能を活性化する薬です。この薬の服用によって「落ち着きがみられ、物忘れが少なくなる」「会話の疎通性が良くなる」「服用前に比べて話の理解力が上がる」「物事の手順を考えられるようになる」「家族を他人と間違えることが少なくなる」「物事を思い出すまでの時間が短くなる」といった症状改善効果がみられます。このように薬の服用によってアルツハイマー型認知症の進行が抑えられ、10ヶ月前後は症状を維持できるといわれます。また、この薬は「軽度から高度に至るアルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制」に対する適応が承認されているため、重症度に関係なく使用されます。1日1回の服用で、主な副作用は消化器症状です。
認知症の治療薬「ガランタミン(レミニール)」
ガランタミンもドネペジルと同様に、アセチルコリンを分解する酵素であるコリンエステラーゼを阻害することによって脳内のアセチルコリン濃度を上昇させる薬ですが、さらにニコチン性アセチルコリン受容体に対するAPL作用により脳内コリン機能を増強させることにより、アルツハイマー型認知症における記憶障害の進行を抑制することが期待できる薬です。APL 作用とは、ニコチン性アセチルコリン受容体において、ガランタミンがアセチルコリンとは異なる部位(アロステリック部位)に結合し、アセチルコリンが受容体に結合した際の薬の働きを増強させる作用のことです。この薬の臨床試験では、認知機能障害悪化の抑制、日常生活動作の維持、介護者の見守り時間減少などの治療効果が示されています。適応は軽度および中等度のアルツハイマー型認知症です。病院で処方されるこの薬は1日2回の服用が必要で、主な副作用は消化器症状です。
認知症の治療薬「リバスチグミン(リバスタッチパッチ、イクセロンパッチ)」
リバスチグミンは、アセチルコリンの分解酵素であるアセチルコリンエステラーゼとブチリルコリンエステラーゼの阻害作用に基き、脳内のアセチルコリン濃度を上昇させて脳内コリン作動性神経機能を活性化する薬です。コリンエステラーゼにはアセチルコリンエステラーゼとブチリルコリンエステラーゼの2種類があります。アセチルコリンエステラーゼは神経細胞に存在し、神経伝達物質であるアセチルコリンのみを分解します。一方、ブチリルコリンエステラーゼは血管内皮細胞やグリア細胞に存在しています。認知症の進行にともなって神経細胞の脱落が起こり、アセチルコリンエステラーゼの活性は低下します。一方、脳内のグリア細胞の数は増加するため、相対的にブチリルコリンエステラーゼの活性は上昇しているため、アセチルコリンエステラーゼ阻害作用だけでなくブチリルコリンエステラーゼ阻害作用を合わせ持つこの薬は、脳内での更なるアセチルコリン濃度の上昇が期待されます。小野薬品から出ている薬には「リバスタッチパッチ」、ノバルティスファーマから出ている薬には「イクセロンパッチ」という製品名が付けられています。日本の病院で処方されるこの薬の剤形はパッチ剤(経皮吸収型製剤)です。パッチ剤では、緩やかで持続的な薬の供給が24時間行われ、最高血中濃度は経口剤よりも低く、消化器症状の副作用が生じることもあまりありません。その一方、パッチ剤という性格上、皮膚症状という副作用が起こります。しかし、副作用といっても発赤や痒みなどといった軽微なものがほとんどで、忍容性には大きな支障のないことが示されています。この薬の適応は軽度および中等度のアルツハイマー型認知症です。パッチ剤の利点としては、服薬の確認が容易で、副作用が出た場合には剥がすことによって薬の吸収を止めることが出来る点です。また、嚥下障害のある方に投与することも可能です。
アセチルコリンは記憶の形成に重要な物質
私たちもアセチルコリンという物質には以前から注目していました。神経細胞にはアセチルコリンが結合すると活性化される部分がありますが、この結合を阻害する薬を使用すると物忘れが生じるようになることや、学習や記憶を行う際に脳の海馬という部分でアセチルコリン濃度の上昇が確かめられていることから、アセチルコリンは記憶の形成には重要な物質であると考えられます。
漢方薬アロマタッチとアセチルコリンとの深い関係
私たちは、漢方薬、メディカルアロマ、頭蓋仙骨療法を融合した漢方薬アロマタッチという手法により、物忘れの予防と改善を目指していますが、注目したいのがアセチルコリンと漢方薬アロマタッチとの関係です。アセチルコリンは、記憶以外でも様々な働きを持つ物質です。例えば心臓への働きかけです。アセチルコリンが心臓に作用すると、心臓はリラックスモードに入り、心拍数が低下します。そこで、漢方薬アロマタッチ前後における5名の心拍数の変化を検証してみました。その変化は、73 →65、95 →82、78 →70、84 →83、75 →68という結果となり、いずれも心拍数は低下しました。また、眼圧を下げる作用もあり、緑内障の治療薬にはアセチルコリン濃度を保つ薬が使用されます。この点に関しても漢方薬アロマタッチとの共通点が見られます。かつて、複数の病院で緑内障と診断され、近々手術する予定だったはずが、手術の順番待ちをしている間に漢方薬アロマタッチを行ったところ、眼圧が下がったために手術の必要性がなくなったという方がいるのです。さらに、漢方薬アロマタッチが終わると空腹感を感じるという感想を多くいただきますが、アセチルコリンには腸の蠕動運動を活性化し、空腹感をもたらす働きもあります。このような結果から、漢方薬アロマタッチとアセチルコリンには深い関係があることが推測されます。
重度認知症からの回復!日常会話やパソコンを使いこなせるようになるまで
実際、私たちは「物忘れが治る」という経験もしています。その中で、最も重症だった例をご紹介いたします。大学病院で重度認知症の診断を受け、時間や場所への見当識が失われ、自分が今どこにいるのかもわからない状態です。また、顔の表情も乏しく、笑顔は一切ありません。片手が硬直し、自立歩行も不可能で、初日は両脇から2人に支えられて来ました。そこで、3日間連続で漢方薬アロマタッチを行ったところ、自立歩行が可能になりました。その後、1週間に1度のペースで継続すると3ヶ月後には物忘れもなくなり、笑顔で日常会話ができる程度にまで回復しました。半年後には硬直していた腕を自由に動かすことが可能になり、さらにその半年後にはパソコンの打ち方を習得し、パソコンを使って手紙が書けるまでの回復を示しました。
物忘れを自覚しないときの対策「白髪染めに行きましょう!」
また、本人が物忘れを自覚していない場合もあります。ご家族が治療を希望しても本人はその必要性を全く感じないため、治療を前に進めることが困難になります。この場合、まずは治療をスタートさせることが大切です。漢方薬アロマタッチを行うためには、薬剤師の資格や医薬品の取り扱い許可だけではなく、美容室の許可も必要となります。そのため、私たちは美容師免許を所持し、漢方薬アロマタッチとともにカット、ヘアカラー、パーマなども行っています。そこで、本人が物忘れを自覚しないときに、ご家族が「今日は髪を切りに行きましょう」「今日は白髪を染めに行きましょう」と誘って連れてきた、ということもありました。髪を切ったり、白髪を染めに来たりすることには抵抗を示さないようです。また、足に痛みを抱えている人にはレッグアロマタッチで足の機能を改善するという手法もあるため、これを上手に活かすという考え方も可能です。このように、物忘れ以外にも様々なストレスを同時に解決できるのも漢方薬アロマタッチの特長のひとつです。この他にも、同じ質問を何度も繰り返すという状態や日常生活レベルの計算ができなくなってしまった状態から、漢方薬アロマタッチを行う毎に回復していく様子も目にしています。
物忘れの予防に!脳にゆとりを生む「漢方薬アロマタッチ」
物忘れは、初期症状が出る前に予防することも大切なことだと私たちは考えます。最近では、物忘れには生活習慣が大きく関わっているといわれ、規則正しい食生活やストレスを溜めない日常生活を送ることは物忘れの予防に有効であることが認められてきています。これに加えて、私たちは本格的な物忘れ予防の手法として、定期的な漢方薬アロマタッチのご利用をおすすめいたします。病気を治すだけではなく、脳の疲れを取除くことも漢方薬アロマタッチの目標のひとつです。仕事や日常生活における脳の疲れは、簡単に取り切れるものではありません。脳血流を改善する漢方薬、気持ちを落ち着かせる漢方薬など、その時々の体調に合わせた漢方薬をお選びし、リラックス効果・抗ストレス作用の高いメディカルアロマなどを使用します。そして、脳脊髄液の流れを整えることを目標とする頭蓋仙骨療法を頭部浴という形で導入し、様々な角度から脳へのアプローチを行います。漢方薬アロマタッチが終わった後の感想として「頭がスッキリして軽くなる」と表現されることが非常に多くあります。この現象は、疲労していた脳に十分なエネルギーが与えられ、脳にゆとりが生まれたためだと考えられます。脳内では神経細胞の巨大なネットワークが形成され、膨大な量の情報のやり取りが行われています。この情報伝達がスムーズに行われないと物忘れにも大きな影響を及ぼします。こう考えると、脳にゆとりを与えることは、情報伝達のエラーを減らし、物忘れを予防するために非常に有効な手段ではないでしょうか?
認知症の治療薬「メマンチン(メマリー)」
この薬は、病院で処方される他の薬と違ってグルタミン酸が作用するNMDA受容体に働きかける薬です。認知症の原因としてはアセチルコリン仮説の他にも仮説があり、この薬は「グルタミン酸仮説」に基く治療薬です。グルタミン酸は脳内の主な興奮性神経伝達物質で、その受容体のひとつにNMDA受容体というものがあります。NMDA受容体は大脳皮質や海馬に高密度に存在し、記憶に関係しています。認知症の記憶障害(物忘れ)には、このグルタミン酸ニューロンや NMDA 受容体の減少が関与していると考えるのが「グルタミン酸仮説」です。この仮説では、グルタミン酸がNMDA受容体を過剰に刺激することによって神経細胞死や記憶形成過程の障害が引き起こされると考えられています。この薬は、NMDA受容体への過剰な刺激を抑えることによって神経細胞を保護し、記憶や学習機能障害を抑制する作用を持つ薬です。適応は中等度および重度のアルツハイマー型認知症です。この薬は1日1回の服用で、主な副作用は、めまい、便秘、体重減少、頭痛などです。
認知症の新薬、臨床試験が相次いで失敗
最近、認知症の新薬開発において注目されていた2種類の新薬の臨床試験が相次いで失敗したという発表が行われました。まずは、『Journal of the American Medical Association(JAMA)』2018年1月9日号に発表された認知症患者に対する選択的セロトニン5-HT6受容体拮抗薬「イダロピルジン(idalopirdine)」の有効性が示されなかったとする臨床試験の結果です。そして、『New England Journal of Medicine』2018年1月25日号に発表されたイーライリリー社が開発をめざしていた抗アミロイドβ(Aβ)抗体薬の「ソラネズマブ(solanezumab)」も認知機能の低下の有意な抑制は示されなかったとする臨床試験の結果です。
新薬「ソラネズマブ」の臨床試験が失敗した理由
ソラネズマブは、認知症に関係するとされる脳のアミロイドβと呼ばれるタンパク質に結合するため、アミロイドβが脳に蓄積する前に除去できるとされてきました。これまでの認知症の治療や予防を目的とした新薬のほとんどは、主として患者の脳内に蓄積するアミロイドβを標的にしていました。しかし、米メイヨー・クリニックのRonald Petersen氏によると、アミロイドβを標的とした新薬の臨床試験の多くは、開始時に認知症患者の脳内に沈着しているアミロイドβを正確に調べる判定法がないため、死後に剖検で確認するしか方法がなかったといいます。しかし、アミロイドPET検査によって生前にアミロイドβを測定することが可能となった現在、認知症患者の脳内に高レベルのアミロイドβの蓄積が認められない患者が約30%もいることがわかってきました。Petersen氏は「アミロイドβを標的とした新薬の臨床試験で対象者の30%に蓄積したアミロイドβがないのであれば、その臨床試験は成功するはずがない」と強く主張しています。また、米ケンタッキー大学准教授のMichael Murphy氏は「アミロイドβの除去が認知症を改善するという前提を再考する必要がある。遺伝学的根拠からアミロイドβが認知症に関与していることは確実だ。しかし、発症してからアミロイドβを取り除けば患者の状態が良くなるのかどうかは分からない」と説明しています。
新薬の研究がアミロイドβを標的としていたのはなぜか?
米アルツハイマー病協会(AA)のJames Hendrix氏によると「10年前は認知症の新薬を開発する研究資金が潤沢でなかったため、最も有望視されたアミロイドβを集中的に研究せざるを得なかった。だが最近は新薬研究の資金が拡充され、アミロイドβ以外にもタウやニューロンの炎症、脳のエネルギー利用などの多因子の新薬研究が進んでいる」といいます。さらにHendrix氏は「認知症を発症しても、記憶力を維持したまま他の疾患で死亡するまで進行を遅らせることができれば、治療の成功といえるだろう」とも語っています。
認知症は、ゆっくりと脳が委縮する病気
認知症とは脳の神経細胞が壊されたことによって起こる症状や状態のことを指します。その原因には様々な説があり、現在のところ確定したものはありませんが、脳全体が長い時間をかけてゆっくりと萎縮していく病気と考えられています。物忘れは認知症の代表的な症状ですが、いきなり全てを忘れてしまうわけではなく、少しずつ様々な症状が現れていきます。初期段階では記憶力が低下し、イライラが募ったり不安になったりしますが、身の回りのことは自分でできるため、介助なしで日常生活を送ることができます。中期になると日常生活にも支障をきたすようになるため、部分的な介助が必要になってきます。後期には日常生活にも全面的な介助が必要となるとともに、家族のことがわからなくなります。ただ、本人はわからないこと自体を判断できなくなるため、不安が和らいで穏やかな気持ちになる傾向があります。
認知症の症状の初期
認知症の代表的な症状は記憶の障害です。記憶は、覚えている期間が短い順に短期記憶、近時記憶、遠隔記憶に分けられます。認知症では、記憶を司る海馬を中心に脳全体の萎縮が始まります。症状の初期では、海馬が萎縮して近時記憶から障害されます。一方、短期記憶は障害されず、直前のことは覚えているため、普通に会話することができます。また、自分の体験であるエピソード記憶が障害されるのも認知症の特徴です。近時記憶とエピソード記憶の障害により、時間や空間がわからなくなったり、ものごと全体を忘れてしまいます。忘れたことを他人に指摘されると、誤魔化したり、取り繕ったりするのも認知症の特徴です。
短期記憶とは…
長くても1分程度の記憶のことです。例えば、電話番号を覚え、そのまま電話するなど、「覚える」「思い出す」のあいだに干渉が入らないような記憶です。作業記憶と呼ばれることもあります。
近時記憶とは…
数分~数カ月間の記憶です。例えば、昨晩の食事や買い物の内容など、数分~数ヶ月間は覚えていても1年後には普通は忘れているような記憶のことです。
遠隔記憶とは…
数カ月~数年間の記憶です。例えば、卒業した小学校の名前や新婚旅行の思い出など、長期間にわたって覚えている記憶のことです。
認知症の中核症状
認知症の中核症状とは、脳細胞の壊死、脳機能の低下と直接的な関係を持つ記憶障害、見当識障害、理解力や判断力の低下、実行機能障害、言語障害(失語)、失行・失認といった認知機能の障害のことです。
記憶障害
認知症で比較的早期から見られる症状として記憶障害があります。記憶を司る脳の海馬という部位が破壊されるために生じる障害です。老化によって物忘れをすることは珍しくありませんが、単なる物忘れと認知症の記憶障害とは次のような点で異なります。
近時記憶の障害から始まり、徐々に長期記憶障害へと広がる
認知症の初期では近時記憶が障害を受ける傾向がありますが、症状が進行するにしたがって長期記憶にも障害が広がっていきます。近時記憶が障害を受けたときには、残された長期記憶を利用して状況を理解しようとすることもあります。例えば、見当識障害によって道に迷ったときには、昔の故郷の光景と重ね合わせて帰り道を探そうとして、さらに道に迷ってしまうことがあります。
出来事自体を忘れる
単なる物忘れでは体験した出来事を部分的に忘れることはあっても、出来事自体を忘れてしまうことは稀です。しかし、認知症による物忘れは体験した出来事自体を忘れてしまうという現象が生じます。これが原因となり、人間関係トラブルに発展することもあります。
一般的な知識や体で覚えたことは忘れにくい
認知症による物忘れは、近時記憶やエピソード記憶が初期から失われる一方で、物事に対する一般な知識は失われにくく、また、楽器の演奏や編み物といった体で覚えたことは実行できるという特徴を持ちます。
見当識障害
見当識とは、季節、年月日、時間において「今がいつ」で、「ここはどこ」で、「自分は今何をしているのか」という、自分が現在置かれている状況を把握することです。自分と他人との関係性を把握することも見当識に含まれます。認知症によって見当識の「いつ」が障害されると、「今、何時なのか」がわからなくなり、約束の時間を守れなくなったり、予定通りに行動することができなくなったりします。次第に「今日は何月何日なのか」「自分は何歳なのか」ということもわからなくなります。季節感も薄れてくるため、季節に合わない服装をすることも多くなります。「どこ」が障害されると、道に迷ったり、自分の家の中でトイレの場所がわからなくなったり、かなり遠方へ歩いて出かけようとしたりします。自分と他人との関係性が障害されると、自分と家族との関係性や過去に亡くなった人物関係についても混乱が生じ、自分の息子のことを「お父さん」と呼んだり、すでに亡くなって今はいない親に会いに行くと言ったりするようになります。
見当識障害が現れる順番
見当識障害は多くの場合、次のような順序で生じるといわれます。
時間の見当識障害
「今日は何月何日なのか」、「今が何時なのか」がわからなくなり、その後、「昼間なのか夜なのか」、「今の季節は」といったことが次第にわからなくなっていきます。
場所の見当識障害
外出先で「今どこにいるのか」がわからなくなり、道に迷うようになります。徐々に自宅を自宅と認識することができなくなり、自宅を他人の家だと認識して帰ろうとしたり、自宅内でトイレの位置がわからなくなって排泄トラブルを引き起こすようになります。
対人関係の見当識障害
対人関係の見当識障害は症状の進行とともに生じてきます。初めのうちは近所の人や会う機会の少ない人のことがわからない状態になります。その後、家族や身近な人のこともわからなくなります。例えば、自分の息子のことを父親と認識したり、妻のことを近所の人と認識したりするようになります。ただし、相手が親しい間柄なのかどうか、安心できる人物であるかどうかを把握する力は失われにくいといわれます。
実行機能障害
実行機能障害とは…
実行機能とは、目的を持った一連の活動を効果的に成し遂げるために必要な機能のことです。この機能が障害を受けると、目標を設定し、計画を立て、その目標に向かって計画通り実行することができなくなります。また、同時に作業することも苦手になるため、料理を作ったり、電化製品を使用したりすることが比較的初期から難しくなります。その後、次第に服を着る順番などの単純な作業もわからなくなり、下着を衣服の上に身に付けたりするような症状が現れるようになります。服を着る順番がわからなくなると、今度は服を着ること自体を避けるようになっていきます。
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薬剤師・美容師の資格を所有しています。幼少時より自然食品を中心とした生活を送る中で食事の大切さを学び、その後、漢方薬を学びました。日々、苦痛が少なく効果が大きい健康法の開拓に努めています。