アルツハイマー型認知症<原因と進行>物忘れ予防に漢方薬アロマタッチ

アルツハイマー型認知症は、どのような原因によって発症し、いかにして初期症状から病気が進行していくのでしょうか?このような疑問の他にも、遺伝、寿命、死因、高血圧、糖尿病とアルツハイマー型認知症との関わりや、検査や診断方法、病院で処方される治療薬の種類と働き、最新の新薬事情など知りたいことは山ほどあります。ここでは、これらの疑問をまとめて解決いたします。さらに、脳に良いといわれる食事の分析や、「物忘れが治る」という経験から予防・治療に期待が寄せられる漢方薬アロマタッチのメカニズムにも鋭く迫ります。

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アルツハイマー型認知症の原因を巡る様々な仮説

認知症とは、一度獲得した認知機能が、何らかの原因によって持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたす状態をいいます。認知症には、いくつかのタイプがありますが、日本で最も多いといわれるのがアルツハイマー型認知症です。アルツハイマー型認知症の患者の脳では、異常に折りたたまれたアミロイドβタンパク質の蓄積やタウタンパク質の異常凝集が認められ、何らかの関与があるのではないかといわれていますが、アルツハイマー型認知症の決定的な原因は特定されていません。現在、その原因を巡って様々な仮説が存在するため、その中のいくつかをご紹介いたします。

アルツハイマー型認知症の原因1:アセチルコリン仮説

最も長い歴史を持つ仮説が「アセチルコリン仮説」です。この仮説は、アルツハイマー型認知症患者の脳ではアセチルコリンを作る神経細胞の数が著しく減少していたという事実から、アセチルコリンがアルツハイマー型認知症の原因であると考えるものです。脳は神経のネットワークによって機能していますが、そのネットワークにおける神経同士の接点では神経伝達物質のやり取りがあります。アセチルコリンは、その神経伝達物質のひとつで物事を記憶する上において重要な働きをしています。アセチルコリンを作る神経細胞は、大脳にある前頭葉の深い位置に存在し、海馬や大脳皮質に神経突起を送り、その先端からアセチルコリンを放出して記憶の情報を伝達します。アルツハイマー型認知症の脳では、広汎に及ぶ組織破壊が起こり、それが原因となってアセチルコリンの不足を招いたという研究もあり、アセチルコリンがアルツハイマー型認知症の原因物質かどうかという結論は出ていませんが、現在の医療で使用される薬の多くがこの仮説に基いたものです。また、一般的な神経炎症の原因となっている可能性も提唱されています。

アルツハイマー型認知症の原因2:アミロイドカスケード仮説

アルツハイマー型認知症では、脳内にアミロイドβと呼ばれるタンパク質が長年にわたって徐々に蓄積し、老人斑と呼ばれるアミロイドβの凝集体が作られます。アミロイドβは認知症状の現れる前から脳に蓄積し始めます。アミロイドカスケード仮説では、このアミロイドβの蓄積が発症の原因となって神経細胞の死や脳の萎縮につながると考えています。この仮説は、遺伝性のアルツハイマー病がアミロイドβの産生に関わる遺伝子(APP、γセクレターゼ)の変異によって引き起こされること、アミロイドβの蓄積は他の異常(神経原線維変化など)に先駆けて進行していることなどといった現象に基づいています。この仮説で原因物質と考えるアミロイドβは、その前駆体タンパク質であるAPPが2段階の切断を受けて生じることがわかっています。しかし、アルツハイマー型認知症を発症していく中で、原因物質アミロイドβが蓄積していく過程の詳細はわかっていません。

アルツハイマー型認知症の原因3:グルタミン酸仮説

グルタミン酸仮説は、脳内における興奮性の神経伝達物質であるグルタミン酸をアルツハイマー型認知症の原因物質とする仮説です。アルツハイマー型認知症では、神経間の接点の隙間でグルタミン酸の濃度が持続的に上昇し、グルタミン酸受容体のひとつであるNMDA受容体が持続的に活性化されて電気シグナルが発生し続けます。この状態に陥ると、記憶を形成する神経伝達シグナルが隠されてしまうため、記憶や学習機能が障害を受けるといわれます。また、NMDA受容体はカルシウムチャネルと連動しているため、高濃度のグルタミン酸によって過剰な興奮が起こると細胞内にカルシウムイオンが大量に流入し、細胞死が引き起こされるのではないかとも考えられています。そこで、NMDA受容体を阻害すれば神経細胞の崩壊を抑制することができるのではないかと考え、これに基づいて作られた薬がメマンチン(メマリー)です。メマンチンは、生理的な神経興奮によって生じる一過性の高濃度のグルタミン酸に対してはNMDA受容体から遊離して正常な神経伝達には影響を与えませんが、持続的な低濃度のグルタミン酸刺激に対しては、その神経興奮毒性に保護的に作用するのではないかと考えられています。

アルツハイマー型認知症の原因4:オリゴマー仮説

アルツハイマー型認知症は、アミロイドβというタンパク質が脳に蓄積し、認知機能(物忘れ)の低下を主症状とする神経変性疾患とされています。これまでは、凝集した不溶性の線維のアミロイドβが老人斑を形成し、これが神経細胞を変性させることが原因となって病気を発症すると考えられていましたが、最近では、凝集過程の中間体である可溶性のアミロイドβオリゴマー(重合体のうち比較的に重合度の低いもの)に強いシナプス(神経間の接合部)障害作用があり、これが原因となって認知機能が低下し、アルツハイマー型認知症を発症するのではないかという「オリゴマー仮説」が提唱されています。実験では、アミロイドβオリゴマーをラットの脳に注入したときに、シナプス機能障害や学習記憶障害を引き起こしたという報告があります。また実際に、アルツハイマー型認知症の脳では、アミロイドβオリゴマーが健常者よりも増加していることが観察されています。

アルツハイマー型認知症の原因5:タウ仮説

アルツハイマー型認知症の海馬や新皮質では神経細胞脱落、老人斑、神経原線維変化が広範囲にみられます。老人斑の主要構成成分はアミロイドβ、神経原線維変化の主要構成成分はタウというタンパク質です。これらの異常沈着物質がシナプス障害、神経細胞死、脳萎縮の原因になっている可能性があると考えられています。アミロイドβとタウには深い関係性があり、アミロイドβがタンパクキナーゼを活性化することによってタウの過剰リン酸化の原因を作る可能性が示唆されています。さらに、試験管レベルにおいては、アミロイドβはタウと直接結合し、低濃度のアミロイドβオリゴマーがタウのオリゴマー化を誘発することが確認されています。これらのことから、体内におけるタウの重合では、核の形成原因としてのみアミロイドβオリゴマーが関与し、その後はタウが自己増殖的に重合していくのではないかということが推測されます。仮にこれが正しいとすると、アミロイドβを原因とした治験薬が失敗した原因を説明することができます。すなわち、治験対象となるアルツハイマー型認知症患者の脳では、すでにタウ病理が進行していてアミロイドβに依存することなくタウが自己重合している状態であるため、アミロイドβを原因とした治験薬は効果を示さなかったと考えることができます。ラットにおける実験では、初代培養神経細胞にアミロイドβオリゴマーを添加して生じたタウのリン酸化、カスパーゼ3の活性化、βカテニンの異常などといった病的変化が、アミロイドβオリゴマーを除去することによって回復することがわかっています。

アルツハイマー型認知症の原因6:アルミニウム原因仮説

アルミニウムイオンの摂取がアルツハイマー型認知症の原因のひとつであるとする仮説があります。第⼆次世界⼤戦後にグアム島を統治したアメリカ軍が、この島に住む⽼⼈が高確率で認知症を発症していることに気がつき、地下⽔の検査をしたところ、アルミニウムイオン濃度が⾮常に高いことがわかりました。そこで、水に含有するアルミニウムの多量摂取が認知症の原因なのではないかと考え、生活用水を⾬⽔と他島からの給⽔に切り替えたところ、認知症の数が激減したといいます。また、日本でも同じような事例があります。紀伊半島に、アルツハイマー型認知症患者の数が他の地域に比べて突出して多かった地域がありました。そこで、グアム島と同様に上⽔道を完備したところ、この問題が見事に解決したといいます。これらの事実がアルミニウム原因仮説の根拠とされています。アルミニウム原因仮説は、1996年3⽉15⽇の毎⽇新聞朝刊に掲載された記事によって広まったといわれます。その記事には、1976年にカナダのある病理学者がアルツハイマー型認知症患者の脳から健常者の数⼗倍に当たる濃度のアルミニウムを検出したこと、これまでは脳内には侵入しないとされていたアルミニウムイオンが⾎液脳関⾨を突破し、脳内に侵入する可能性があることなどが紹介されています。その後、読売新聞や朝⽇新聞なども同様の記事を掲載したことによって、アルミニウム原因仮説が⽇本国内で次第に有⼒視されるようになりました。

アルツハイマー型認知症の原因7:インスリン分解酵素仮説

インスリン分解酵素仮説では、インスリンの分泌を促す糖質中心の食習慣や運動不足、あるいは内臓脂肪過多がアルツハイマー型認知症の原因となるアミロイドβの分解を妨げているとしています。インスリン分解酵素は、インスリンの分解だけではなくアミロイドβも分解する能力も合わせ持ちます。このインスリン分解酵素が、糖質中心の食生活を送ることによって血中インスリンの分解に忙しくなり、本来存在するはずの脳内におけるインスリン分解酵素の濃度が低下し、アミロイドβの分解にまで手が回らなくなることが原因となって脳内にアミロイドβが蓄積されてしまうようになるのだといいます。インスリンは、脳内で増えすぎると神経細胞を障害し、物忘れを悪化させる原因になるといわれます。

アルツハイマー型認知症の原因8:感染症原因仮説

感染症原因仮説は、ウイルスや細菌などの微生物の感染がアルツハイマー型認知症を引き起こす原因だとする仮説です。まずは健常時に単純ヘルペスウイルス 1 型(HSV1)、クラミジア、スピロヘータの2種類の細菌が脳内に潜伏感染したとします。そして、老化に伴って免疫力が低下していくと、これまで潜在化していた病原微生物が活性化され、産生分泌される病原因子が原因となって脳に炎症を引き起こします。これによって、シナプス機能障害や神経細胞死が起こり、アルツハイマー型認知症を発症するのだといいます。また、アルツハイマー型認知症患者の脳組織では、新たに真菌細胞や真菌糸が検出されたという報告もあります。

アルツハイマー型認知症の進行過程

アルツハイマー型認知症としっかりと向かい合うためには、現在の症状がいつまで続き、一般的にどのような進行過程を経るのかといった情報を知るのは大切なことです。ここでは、軽度認知障害(MCI)と呼ばれる認知症の手前の段階から認知症に至るまでの一般的な進行過程を記したいと思います。

軽度認知障害(MCI)とは

認知症の定義は「進行性の認知機能低下により、日常生活や社会生活に支障をきたす状態」とされています。アルツハイマー型認知症をはじめとする認知症の多くは徐々に認知機能の低下が進行するため、正常とはいえないが認知症とも診断することができない、認知症の一歩手前の状態が存在します。このような状態を軽度認知障害(MCI)といいます。軽度認知障害(MCI) の 定義は「認知機能の低下に関する訴えがきかれ、認知機能は年齢相応より低下するが認知症には到らず、基本的な日常生活には支障がない状態」とされています。軽度認知障害の数年間の調査により、軽度認知障害から高い確率で認知症に進行することが明らかになっています。

進行していく症状と重症度との関係

臨床認知症尺度(Clinical Dementia Rating ; CDR)にしたがって認知症の重症度を5段階に分け、正常な状態から認知症に進行していく過程を見ていきます。

正常な状態の把握

正常な状態では、もちろん記憶障害はありませんが、軽度の断続的な物忘れがあることもあります。見当識障害はみられません。日常生活や仕事上の問題を解決することができます。また、金銭の管理も良好で、過去の実績と比較しても変わらずに優れた判断力を示します。また、地域社会の面においては、仕事、買い物、ボランティア、社会集団において、通常のレベルで自立して機能することができます。家での生活、趣味、知的関心が十分に保持され、介護を全く必要としない状態です。

軽度認知障害(MCI )への進行

軽度認知障害(MCI )に進行すると、軽い物忘れが頻繁に起こるようになり、出来事を部分的に思い出す良性健忘が生じてきます。見当識の面では時間進行関係の軽度の困難さが生じてきますが、それ以外の障害はありません。問題解決能力や 類似点、相違点の判断力に軽度の障害が認められるようになります。仕事、買い物、ボランティア、社会集団での活動にも軽度の障害が出始め、家での生活、趣味、知的関心も薄れてきます。この段階では介護は必要としません。

軽度認知症への進行

軽度認知症に進行すると、中等度の記憶障害により日常生活に支障が生じるようになります。特に最近の出来事に対する記憶に障害が生じます。時間進行関係の見当識にも中程度の障害が出てきます。検査の場所における見当識は良好ですが、他の場所では地誌的見当識に障害が起きることがあります。問題解決能力や 類似点や相違点の判断力に中程度の障害が認められるようになります。通常、社会的判断は保持されます。また、仕事、買い物、ボランティア、社会集団での活動には関わっていても自立して機能できない状態です。簡単な検査では正常と診断されることも多いといわれます。家庭生活の面では、軽度でも確実な障害がみられ、家事は複雑なことはできなくなり、趣味や関心も複雑なものに関してはなくなってきます。介護は奨励することが必要とされます。

中等度認知症への進行

中等度認知症に進行すると、重度の記憶障害が生じるようになり、過去に十分学習したことのみを保持し、新しいことは急速に記憶から消失するようになります。時間進行関係に重度の障害を持ち、一般的に時間的見当識障害が現れ、地誌的見当識障害もよく見られるようになります。問題解決能力や 類似点、相違点の判断力に重度の障害が認められるようになります。多くの場合、社会的判断力も障害されます。この進行過程では家庭外での自立は不可能ですが、自宅外へ連れ出しても第三者の目には活動可能に見えます。家事は非常に簡単なことだけが可能で、物事への関心は限定されたもののみとなります。介護の面では、着衣、衛生管理など身の周りのことに介助が必要となります。

重度認知症への進行

重度認知症に進行すると、より重度の記憶障害が生じるようになり、記憶は断片的なものが残っている程度になります。この進行過程に至ると人物への見当識は保たれますが、時間や場所への見当識は失われます。また、問題解決能力や判断力も失われ、自宅外へ連れ出して生活することは不可能となります。家庭内でも意味のある生活活動は困難になり、日常生活に対する十分な介護が必要とされ、失禁症状も頻繁に現れるようになります。

進行が止まり、認知機能が正常化するケースも

軽度認知障害と診断されても全員が認知症を発症するとは限りません。軽度認知障害が進行して認知症を発症する人の割合は、年間5~15%と報告されています。反対に、進行が止まって認知機能が元に戻り、検査で正常と診断される人の割合は年間14~44%といわれています。認知機能が元に戻るのは、脳には可塑性と呼ばれる回復能力が備わっているためです。神経細胞のネットワークは常に変化し続け、仮にある部分が損傷を受けて使えなくなっても他のネットワークに切り替えることが可能なのです。

アルツハイマー型認知症の症状

認知症の症状は、中核症状と周辺症状のふたつに大別することができます。中核症状とは、脳の器質的な障害によって現れる症状です。代表的な中核症状は、物忘れといわれる「記憶障害」です。起こった出来事や経験を忘れてしまう症状です。この症状はアルツハイマー型認知症では、ほぼ全ての患者に認められ、物忘れは症状の進行に伴って悪化していきます。その他の症状では、日時や場所を把握する能力が失われる「見当識障害」が現れます。また、徘徊や無為・無反応、食行動異常などの行動症状やうつ状態、焦燥、妄想などの心理症状が現れます。この行動症状と心理症状を合わせて周辺症状と呼びます。

中核症状1:物忘れと呼ばれる初期症状

いわゆる「物忘れ」と呼ばれる初期症状の「記憶障害」は、最も基本的で代表的なアルツハイマー型認知症の中核症状です。そもそも記憶とは、物事を覚える「記銘」、脳に留める「保持」、必要な時に引き出す「想起」という3つの脳内過程を指す言葉です。物忘れは、この過程のいずれかが障害され、記憶のメカニズムに異常をきたすことです。記憶は、内容と時間軸によって分類されます。内容による分類では、過去の体験などを言葉やイメージによって表現できる「陳述記憶」と言葉では表現できない「非陳述記憶」に分けられます。陳述記憶は、さらに「意味記憶」と「エピソード記憶」に分けられます。また、時間軸による分類では、数十秒以内を記憶する「即時記憶」、数分間~数日間を記憶する「近時記憶」、数週間~数十年間を記憶する「遠隔記憶」に分けられます。

アルツハイマー型認知症の物忘れでは初期にエピソード記憶、後に近時記憶の損害症状が起きやすい

アルツハイマー型認知症の物忘れでは、初期症状としてエピソード記憶への損害が現れます。エピソード記憶とは個人的に経験した出来事に関する記憶で、例えば、昨日の夕食をどこで誰と何を食べたかというもので、事実だけではなく、その時の感情も一緒に記憶します。この症状は比較的初期の段階から生じる症状です。さらに、初期症状が進行すると意味記憶も次第に低下していきます。その中でも特に損害症状が起きやすいのが近時記憶に関する物忘れ症状です。近時記憶は、数分間~数日間の間に起った出来事を脳に留めておくという記憶です。この物忘れ症状が起きるのは、物事を覚える「記銘」と深い関係にある海馬領域の神経細胞がダメージを受けやすいことが原因といわれます。このため、アルツハイマー型認知症の初期症状として現れる物忘れでは古い記憶は保持されるのですが、新しい物事を記憶することが難しくなるのです。さらに物忘れ症状が進行すると、エピソード記憶を固定する働きを持つ側頭葉にもダメージが広がり、古い記憶に対する物忘れも徐々に生じるようになります。

中核症状2:自分の置かれた状況が理解できない見当識障害

見当識障害とは、時間や空間、周囲の人物を認識する能力が低下する症状を指します。認知症の症状としては、時間的見当識の障害、場所や空間に対する地誌的見当識障害、人物に対する見当識障害があります。見当識障害があると、今はいつなのか、ここはどこなのか、一緒にいる相手は誰なのかがわからなくなります。いつも行っている場所のはずなのに道に迷ってしまったり、家族や友人なのに誰だかわからなくなったりするという症状が現れます。

アルツハイマー型認知症では初期に時間、初期~中期に場所、後期に人に対する見当識障害の症状が現れる

見当識障害は、軽度認知障害(MCI)では見られない症状です。この症状の有無がアルツハイマー型認知症の初期の診断における重要な指標になるといわれます。アルツハイマー型認知症では、初期症状として時間的見当識障害が現れ、続いて初期~中期にかけて地誌的見当識障害の症状が現れ始めます。人物に対する見当識障害の症状が現れてくるのは後期で、症状の進行とともに現れ始め、徐々に悪化していきます。また、脳の中でも頭頂葉と側頭葉は特にダメージを受けやすく、場所や空間内での自分の位置認識をする能力が低下します。アルツハイマー型認知症で初期の段階から地誌的見当識障害の症状が現れ、いつも行っている場所で迷子になってしまうことがあるのは、この頭頂葉と側頭葉のダメージが原因であるのではないかと推測されます。

周辺症状1:初期症状から始まる徘徊の原因は見当識障害・不安・焦燥など

徘徊とは、どこともなく歩き回る状態をいいますが、認知症の場合は途中で目的を忘れたり、道がわからなくなったりすることが原因となり、迷子になることが多いといわれます。この症状は、アルツハイマー型認知症では初期症状から現れ始め、中期以降はさらに顕著になります。場所に対する見当識障害や、それに伴う不安や焦燥などが原因になるといわれています。

周辺症状2:初期症状から後期症状まで高頻度で発症する無為・無反応症状

認知症を発症した時の行動症状では、攻撃性が高まる暴言・暴力症状と活動性が失われる無為・無反応症状が現れる場合があります。アルツハイマー型認知症の場合は、無為・無反応症状が現れるケースの方が多いといわれています。自発性や意欲が著しく低下し、自ら積極的に何かを行うことがなくなり、閉じこもりがちになるアパシーという症状によって無為・無反応症状が引き起こされることもありますが、アルツハイマー型認知症では初期症状から後期症状まで高頻度で発症するといわれます。意欲が低下し、何事にも関心を示さなくなり、かつて好きだったことにすら興味を持たなくなる症状です。認知症では高頻度でうつ状態が混在するため、無為・無反応症状がみられるときには慎重に診断することが大切になります。

周辺症状3:嚥下障害が起きる食行動異常症状

アルツハイマー型認知症では、嗅覚障害による食欲不振が起こりやすいといわれます。また、記憶障害によって何度も食事を要求するという症状や、視覚失認によって食事をうまく口に運ぶことができなくなるといった症状が現れることがあります。後期になると嚥下障害が目立つようになってきます。

周辺症状4:喜びの欠如が著しい認知症のうつ症状

脳萎縮や血管障害、神経変性などといった器質的障害はうつ症状を招きやすく、認知症患者にはうつ症状が出現することが多いといわれます。悲哀感や自己評価の低さよりも喜びの欠如が著しいのが認知症の特徴といえます。慢性頭痛や不眠などの身体症状を訴える方も多くいます。アルツハイマー型認知症の初期症状として20~40%の方にうつ症状がみられます。初期段階では身体能力や記憶力の低下により喪失感を抱きやすく、見当識障害による強い不安があるといいます。初期の頃は自分が病気であるという認識があるため、失敗を指摘されることによる気持ちの落ち込みが頻繁にみられます。

周辺症状5:アルツハイマー型認知症で高頻度に現れる焦燥症状

認知症の心理症状としての焦燥症状は、焦燥性興奮と呼ばれます。不適切な発言、発声、行動などのうち、意識障害による欲求や錯乱、困惑に起因しないものをいいます。例えば、不平・不満をいう、大声を上げる、意味もないのに室内を歩き回ったりするという症状です。焦燥性興奮のメカニズムは複雑で、認知症による神経生理学的変化に加え、心理的要因、社会的要因、環境要因や発症前の性格なども影響し、原因は多岐にわたります。このような症状は中等度以上の認知症で現れやすく、特にアルツハイマー型認知症では高頻度で発症し、重症度も高いといわれます。

周辺症状6:もの盗られ妄想

妄想には一次妄想と二次妄想とがあります。一次妄想とは統合失調症などの精神疾患にみられ、その出来事がどのようにして生じたのか第三者からは理解できないような妄想のことです。一方、二次妄想は、患者の感情や心理状況、その場の環境などから判断して第三者がその内容や経緯を理解できる妄想です。認知症の妄想は後者です。例えば、財布を自分でどこかに置いたことを忘れ、お嫁さんに盗まれたと思い込むというのが典型的な症状です。認知症の妄想は、その対象が家族や介護者などの身近な人であることが多いのも特徴です。アルツハイマー型認知症で妄想の症状が起こるのは、見聞きする情報を頭に入れた後、その情報を処理する連合野が大きなダメージを受けていることと、情報処理に付与する扁桃体や海馬がダメージを受け、情報が偏って受信されるためではないかと考えられています。

物忘れ予防・治療に漢方薬アロマタッチ

私たちは、漢方薬、メディカルアロマ、頭蓋仙骨療法を複合的に利用することによる物忘れ予防・治療に取り組んでいます。頭蓋仙骨療法というのは、脳を包み込んでいる脳脊髄液を外から優しく刺激することによって脳脊髄液の流れを整えるというものです。私たちが行うのは、この手法に「物忘れに効果的」と考えられるメディカルアロマを頭部浴という形で融合し、さらにアルツハイマー型認知症に有効といわれる漢方薬治療を同時に行う漢方薬アロマタッチという手法です。

物忘れと深い関係を持つアセチルコリンの様々な特徴

アルツハイマー型認知症の脳内では、アセチルコリンという物質が減少しています。アセチルコリンは、脳内で記憶や思考、学習に深く関係している神経伝達物質です。現在の医療では治療薬もアセチルコリンを減らさない薬が中心となっており、アセチルコリンがアルツハイマー型認知症治療のカギを握っていると考えられます。アセチルコリンは、記憶・思考・学習の他にも様々な働きに関与しています。例えば心臓への働きかけです。アセチルコリンが心臓に作用すると、心臓はリラックスモードに入り、心拍数が低下します。また、アセチルコリンには眼圧を下げる作用があり、緑内障の治療薬にはアセチルコリンの量を減少させない薬が使用されます。さらに、腸に働きかけると腸の蠕動運動を活性化させます。

物忘れ予防・治療物質「アセチルコリン」の働きと漢方薬アロマタッチとの関係

漢方薬アロマタッチが終わった後には、空腹感を覚えるという感想をよくいただきます。これは、漢方薬アロマタッチ後にリラックスした腸の蠕動運動が活発になったために起きる現象ではないかと考えられます。そこで、このリラックス状態を確認するため、漢方薬アロマタッチの前後で心拍数を計測したことがあります。無作為に選んだA氏~E氏の5名の方にお願いし、漢方薬アロマタッチを行う前後に心拍数を計測させていただいたところ、A氏(前)73 →(後)65、B氏(前)95 →(後)82、C氏(前)78 →(後)70、D氏(前)84 →(後)83、E氏(前)75 →(後)68という結果が得られました。心拍数の下がり方には個人差があるものの、いずれも心拍数は減少し、漢方薬アロマタッチを行った後の方が深いリラックス状態が得られたことが推測されます。また、緑内障と診断されて手術する予定だったはずの方が、漢方薬アロマタッチをすることによって眼圧が下がり、手術の必要性がなくなり、正常眼圧に戻ったという方もいます。これらの現象を前述した物忘れ予防・治療物質「アセチルコリン」の特徴に照らし合わせてみると、一致する点が非常に多く感じられます。このような事実から推測されることは、漢方薬アロマタッチを行うことによって体内のアセチルコリンの量が増加する、あるいは活性化されるのではないかということです。

「物忘れが治る」という経験1

漢方薬は、日本や中国での長年の経験に基づき、様々な治療効果を持つ生薬を組み合わせて病気を治療する薬です。同様に、メディカルアロマは西洋の長い歴史の中で培われてきた植物療法です。この経験に基づくふたつの手法と、脳脊髄液にアプローチする頭蓋仙骨療法を融合したのが漢方薬アロマタッチです。私たちは、この手法によって、うつ病、喘息、睡眠障害などといった様々な症状が改善されていくという経験をしましたが、中でも特に印象的なのが「物忘れが治る」という経験です。大学病院で重度認知症の診断を受け、時間や場所への見当識が失われ、自分が今どこにいるのかもわかりません。また、顔の表情も乏しく、笑顔は一切ありません。片手が硬直し、自立歩行も不可能なケースで、初日は両脇から2人に支えられる状態で来ました。それが、3日間連続で漢方薬アロマタッチを行うことによって自立歩行が可能になり、その後、1週間に1度のペースで継続すると3ヶ月後には物忘れもなくなり、笑顔で日常会話ができる程度にまで回復しました。半年後には硬直していた腕を自由に動かすことが可能になり、「私も最近、物忘れをするようになって困ったものです」などと言って周囲の人たちを笑わせるくらいの著しい回復をみせるようになりました。さらにその半年後にはパソコンの打ち方を習得し、パソコンを使って手紙が書けるまでになったのです。

「物忘れが治る」という経験2

また、治すのが難しい物忘れの症状として、本人が物忘れを自覚していないというケースもあります。ご家族が治療を希望しても本人はその必要性を全く感じないため、検査さえも拒み続けるというケースです。この場合は治療を開始すること自体に困難を伴います。漢方薬アロマタッチを行うためには、薬剤師の資格や医薬品の取り扱い許可だけではなく、美容室の許可も必要となります。そのため、私たちは美容師免許を所持し、漢方薬アロマタッチとともにカットヘアカラーパーマなども行っています。そこで、本人が物忘れを自覚しない場合に、ご家族が「今日は髪を切りに行きましょう」「今日は白髪を染めに行きましょう」と誘って連れてきた、というケースもありました。髪を切ったり、白髪を染めに来たりすることには抵抗を示さないようです。また、足の痛みが原因でストレスを抱えている人にはレッグアロマタッチで足の機能を改善するという手法もあるため、これを上手に活かすという考え方も可能です。このように、物忘れ以外にも様々なストレスを同時に解決できるのも漢方薬アロマタッチの利点です。この他にも、同じ質問を何度も繰り返すという状態や日常生活レベルの計算ができなくなってしまった状態から、漢方薬アロマタッチを行う毎に回復していく様子も目にしています。

物忘れの予防に漢方薬アロマタッチ

物忘れは、初期症状が出る前に予防することも大切なことだと私たちは考えます。最近では、物忘れには生活習慣が大きく関わっているといわれ、規則正しい食生活やストレスを溜めない日常生活を送ることは物忘れの予防に有効であることが認められてきています。これに加えて、私たちは本格的な物忘れ予防の手法として、定期的な漢方薬アロマタッチの利用をおすすめいたします。病気を治すだけではなく、脳の疲れを取除くことも漢方薬アロマタッチを行う目標のひとつです。仕事や日常生活における脳の疲れは、簡単に取り切れるものではありません。脳血流を改善する漢方薬、気持ちを落ち着かせる漢方薬など、その時々の体調に合わせた漢方薬をお選びし、リラックス効果の高いメディカルアロマを使用します。そして、脳脊髄液の流れを整えることを目標とする頭蓋仙骨療法を頭部浴という形で導入し、様々な角度から脳へのアプローチを行います。漢方薬アロマタッチが終わった後の感想として「頭がスッキリして軽くなる」と表現されることが非常に多くあります。この現象は、疲労していた脳に十分なエネルギーが与えられ、脳にゆとりが生まれたためだと考えられます。脳内には神経細胞の巨大なネットワークが形成され、膨大な量の情報のやり取りが行われています。この情報伝達がスムーズに行われないと物忘れにも大きな影響を及ぼします。こう考えると、脳にゆとりを与えることは、情報伝達のエラーを減らし、物忘れを予防するために非常に有効な手段であると思われます。

アルツハイマー型認知症の予防

アルツハイマー型認知症は、従来、生活習慣病の影響をあまり受けないと考えられてきました。ところが、最近の研究によって、アルツハイマー型認知症の発症には生活習慣病が大きく関わっていることが明らかになってきました。中でも、大きな影響を与えるといわれるのが高血圧と糖尿病です。このふたつの病気によって、認知症を発症するリスクは2倍になるといわれています。この観点からすると、アルツハイマー型認知症を予防するためのひとつの手段として高血圧と糖尿病の早期予防が挙げられます。

アルツハイマー型認知症の予防効果を高める高血圧の早期予防

生活習慣病の中でも、特に高血圧と糖尿病が高い確率でアルツハイマー型認知症引き起こすのはなぜでしょうか?高血圧の人は、脳梗塞や脳出血を引き起こしやすいことが知られています。これは、長い年月にわたって高血圧が持続することによって、脳の動脈が硬くなって弾力を失い、切れたり詰まったりしやすくなるためです。脳の中でも精神面を司る前頭葉や頭頂葉などに脳卒中が起きると、認知症を発症します。高血圧を早めに治療することによって、脳卒中を発症する確率は劇的に減少するため、アルツハイマー型認知症の予防効果も高くなるといわれます。特に後期高齢者で発症するアルツハイマー型認知症は、脳卒中による影響はさらに大きくなるため、脳卒中の予防がアルツハイマー型認知症の予防に直結すると考えられています。日頃からの塩分制限、肥満の改善、適度な運動などが予防につながります。

アルツハイマー型認知症の発症リスクを2倍にする糖尿病の予防が大切

糖尿病は、アルツハイマー型認知症の発症リスクを2倍にするといわれています。アルツハイマー型認知症では、脳の中にアミロイドβが蓄積されていくという特徴があります。糖尿病では血糖値が上昇して高血糖状態が維持されるため、飽和状態になるのを予防するために膵臓からインスリンが分泌されます。役目を終えたインスリンは酵素によって分解されますが、その分解酵素はアミロイドβを分解し、脳外へ排出することによってアミロイドβの蓄積を予防するという働きも合わせ持ちます。ところが、糖尿病の人の体内では、インスリン分解酵素は増えすぎたインスリンを分解するのに精一杯で、アミロイドβの分解にまで手が回らず、結果としてアミロイドβが蓄積されていくのだといわれています。この考え方は、糖尿病患者が高い確率でアルツハイマー型認知症を発症する理由を示す有力な仮説として注目を集めています。そのため、アルツハイマー型認知症を予防するためには糖尿病の治療が大切で、これを治すためには食事療法、運動療法などが必要とされます。

アルツハイマー型認知症の予防に役立つ食事

アルツハイマー型認知症の人の脳内では、アミロイドβやタウタンパクが異常に蓄積され、神経細胞が壊れることが病気の発症に関与するといわれます。これらの物質が異常に蓄積される原因のひとつに老化が挙げられます。そのため、認知症を予防するためには老化速度を遅らせることも大切なことだといわれます。老化の原因のひとつとして考えられているのが活性酸素です。酸素はエネルギーを作り出すためには必要な物質ですが、その過程で普通の酸素に比べて他の物質と反応しやすい活性酸素が発生します。活性酸素は、殺菌作用などを有し、体にとって必要な物質ではあるのですが、その反面、多すぎると遺伝子や血管を傷つけ、老化を促進してしまうともいわれています。そのため、余分な活性酸素を除去することは老化の予防に有効とされ、この働きをしてくれる緑黄色野菜を中心とした食事を摂ることが大切であると考えられています。

予防効果が期待される食事栄養素1:カロテノイド

アルツハイマー型認知症の予防効果が期待される食事栄養素のひとつとしてカロテノイドが挙げられます。カロテノイドは、天然に存在する色素で、主に野菜や果実などに含まれる黄色・橙色・赤色の色素成分の総称です。β‐カロテンなどは吸収されて体内でビタミンAに変わります。β‐カロテン、リコピン、ルテインには、ガンや老化などの予防効果が期待されます。カロテノイドは基本的に緑黄色野菜に多く含まれますが、赤色色素であるアスタキサンチンは、かに、えび、さけなどの一部の魚介類にも含有されていて、他のカロテノイドに比べてより強い活性酸素消去作用を持つといわれています。カロテノイドは一般的に強い抗酸化作用を持つのが特徴で、目や皮膚を紫外線から保護し、活性酸素を除去する役割を持つほか、老化による視力低下の防止、抗ガン作用などに効果が期待できます。カロテノイドは油溶性のため、油を使った調理方法で食べると体内に吸収されやすくなります。

予防効果が期待される食事栄養素2:ビタミンC

アルツハイマー型認知症の予防効果が期待される食事栄養素のふたつめはビタミンCです。水溶性ビタミンのひとつでアスコルビン酸とも呼ばれます。ビタミンCは、生体内の総たんぱく質の3割を占めるコラーゲンの合成を担い、丈夫な血管・骨・軟骨組織・皮膚などをつくるために不可欠なビタミンです。野菜類(パプリカ・パセリ・ブロッコリー・青菜類など)、果物類(キウイフルーツ・いちご・かんきつ類など)、芋類などに多く含まれます。免疫力を高め、細菌やウイルスに対する抵抗力を強化する役割を持つほか、活性酸素の働きを抑える抗酸化作用、メラニンの生成を抑えて皮膚の色素沈着の予防、鉄分の吸収を助けて貧血の予防、動脈硬化症などの各種生活習慣病の予防、ガン予防などに効果が期待されます。

予防効果が期待される食事栄養素3:ビタミンE

次にアルツハイマー型認知症の予防効果が期待される食事栄養素はビタミンEです。ビタミンEの代表的な働きは、高い抗酸化作用です。これによって有害な活性酸素を除去し、細胞膜を保護するとともに、脂質が酸化されてできる過酸化脂質の生成も予防します。過酸化脂質は内臓や血管など全身に沈着し、動脈硬化、生活習慣病、老化、ボケなどを招くとされており、ビタミンEは、これらの予防に効果を発揮します。さらに血行を改善する働きや肌のシミや冷え症を予防する働きもあります。ビタミンEが不足するとシミができたり、皮膚の抵抗力が弱くなります。植物油(ひまわり油・やし油・べに花油など)、種実類(ごま・アーモンド・ピーナッツなど)に豊富に含まれており、食事として緑黄色野菜を炒めて食べると他のビタミン類も同時に摂れて効果的です。

予防効果が期待される食事栄養素4:ポリフェノール類

ポリフェノール類もアルツハイマー型認知症の予防効果が期待される食事栄養素です。ポリフェノールは、植物において光合成によって生成される色素や苦味成分で、褐変反応の原因物質として知られています。食事からは赤ワイン、果物類、カカオマス、緑茶、煎茶、納豆などから摂取できます。果物の場合、皮にもポリフェノールが豊富に含まれているため、皮ごと食べるのがお勧めです。コーヒーやお茶は、ペットボトルで販売しているものより淹れたての方がポリフェノールを多く含んでいます。また、その種類は約300におよび、強力な抗酸化作用により、体に弊害を起こす活性酸素を除去する働きを持ちます。その他、血中コレステロールの上昇予防、肝機能の低下予防、血行促進による肩こり予防、悪玉コレステロールの酸化阻害による動脈硬化・脳血管障害などの予防、発がん物質の活性化抑制などの作用があるとされています。

予防効果が期待される食事栄養素5:ミネラル類

ミネラル類もアルツハイマー型認知症の予防効果が期待される食事栄養素のひとつです。ミネラルは英語で鉱物を意味し、生命維持に必要なものを栄養学ではミネラルと呼んでいます。ミネラルは体重の約5%を占める物質で、骨や歯などの骨格を形成し、たんぱく質や脂質の構成成分にもなっています。また、血液や体液のpHや浸透圧を正常に保つことに生体機能を調整する働きを持ち、さらに酵素の補助因子やホルモンの成分にもなります。必要量はわずかなため、ビタミンとともに微量栄養素と呼ばれています。ミネラルは体内で合成できないため、食事や薬やサプリメントなどから摂取する必要があります。ミネラルは欠乏症と過剰症の幅、適正な範囲が狭いのが特徴です。また、特定のミネラルを多くとると、他のミネラルとのバランスを崩し、かえって健康をそこなうことも知られています。従来の食事ではミネラル不足が問題視されることはありませんでしたが、現代の食事ではミネラルバランスが大きく乱れ、多くのミネラル欠乏症が潜伏している可能性があるといわれています。原因のひとつは食品の精製で、ミネラルを多く含む部分を取り除いていることです。例えば、精製された砂糖に含まれる鉄分は黒砂糖の6.4%、カルシウムに至ってはわずか0.7%です。また、加工食品も大きな原因のひとつです。濃い味付けをするためにナトリウムが過剰になる上、食品添加物や清涼飲料水にはリン酸が多く使用されるのでリン過剰の状態に陥ります。カルシウムとリン酸を一緒に摂ることによって吸収されにくいリン酸カルシウムが生成され、カルシウム不足を招きます。ミネラルバランスとして最もカルシウムの吸収率が高いのがカルシウムとリンとの比率が2対1のときです。しかし、加工食品の摂取が多い現在の食事では、ほぼ1対1.5程度のバランスになっているといわれます。食事で摂取するカルシウムが不足すると、血清中の濃度を一定に保つために骨に蓄えられたカルシウムが溶けだし、骨粗鬆症を引き起こします。また、ストレスに弱くなり、イライラしたり寝つきが悪くなったりもします。さらに細胞内のカルシウム量が減ると、高血圧、動脈硬化や糖尿病などの生活習慣病の原因となり、アルツハイマー型認知症の発症率が高まるといわれています。食事で効率良くカルシウムを摂取できる食品は、海藻類(わかめ・のり・昆布など)、魚介類(桜えび・うるめいわしなど)、納豆などです。ミネラルは、熱には強いのですが水に溶けやすいという性質を持つので、茹でるよりも蒸す方が無駄なく摂取できます。煮込み料理の場合は煮汁もいただくと予防効果が高まります。

アルツハイマー型認知症と寿命との関係

認知症の主なタイプは、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、脳血管性認知症、前頭側頭葉変性症の4つに分けることができます。その中で最も多いのがアルツハイマー型認知症で、全体の約半数を占めています。1950年代までの日本では、現在に比べて認知症患者の数は少なく、その中でも脳血管性認知症が認知症の多くの割合を占めていました。しかし、その後の厚生労働省の統計によると、日本における認知症患者数は増加の一歩をたどり、2012年には認知症予備軍も含め約620万人(65歳以上の人の7人に1人、85歳以上の人の4人に1人の割合)になりました。そのうち、約320万人の人がアルツハイマー型認知症です。2025年には約675万~730万人(65歳以上の人の5人に1人)が認知症になると推定されています。なぜ、これほどまでに認知症が増えたのでしょうか?その最も大きな原因は、日本人の平均寿命が延びたことにあるといわれます。

平均寿命の変化の背景1:飢饉と感染症の流行

江戸時代後期の日本人の平均寿命は30歳に満たなかったともいわれています。厚生労働省発表の生命表によると、その後の明治時代後期~大正時代初期においても、当時の平均寿命は女性で44.73歳、男性で44.25歳です。この平均寿命の短さには乳幼児死亡率の高さが大きく関係しています。さらに、江戸時代には繰り返される飢饉と疫病(感染症)によって多くの人々が亡くなり、明治時代以降にはスペイン風邪や結核の流行や度重なる戦争によって多くの若者たちが亡くなったという背景もあります。

平均寿命の変化の背景2:結核の激減

第二次世界大戦後の1947年、ようやく栄養状態や衛生環境が整い始め、平均寿命は男女ともに50歳を超えました。このころから日本人がかかる病気の種類や死亡原因が大きく変化し、平均寿命も急激に伸びていくことになります。まずは抗生物質とワクチンの使用によって感染症による死亡率が大きく減少しました。その中でも特に大きな影響を与えたのが結核の激減です。結核は、1930年代から日本人の死因第1位で、国民病ともいわれた感染症です。この感染症に対する治療が、ストレプトマイシンという抗生物質の誕生によって大きく進んだのです。

平均寿命の変化の背景3:国民皆保険制度の誕生

その後、外因性の病気である感染症に代わって増加したのは、体内で病変が起きる内因性の病気で、生活習慣に深い関わりを持つ慢性病です。高血圧、脳卒中、心臓病などが増えてきました。しかし、国民皆保険制度の誕生によって高水準の医療が安価に受けられるようになり、降圧剤などの薬を投与することによって重症度が下がり、これらの病による死亡率が低下し、寿命も着実に伸びていきます。

平均寿命の変化の背景4:長寿社会の実現

1970年代になると日本の平均寿命は欧米に追いつき始めます。1977年には、日本女性の平均寿命は77.95歳、男性の平均寿命は72.69歳となり、世界1の長寿国スウェーデンと1位の座を争うまでになりました。その後、平均寿命はさらに延び、2015年の女性の平均寿命は87.05歳、男性の平均寿命が80.79歳になります。

平均寿命の変化の背景5:アルツハイマー型認知症と老化との関係

大脳皮質は140億個の神経細胞によって構成され、互いに連携を取りながら巨大なネットワークを築いています。神経細胞同士の接合部にはわずかな隙間があり、神経細胞からは情報を伝える神経伝達物質が放出されています。この活動に伴って、アミロイドβというタンパク質が産生されます。アミロイドβは接合部の機能を調節する働きを持ち、通常は一定の濃度に保たれています。しかし、産生と除去のバランスが崩れるとアミロイドβは増加し続け、過剰状態に陥ります。すると、アミロイドβの分子同士が結合し始め、アミロイドβオリゴマーという塊を形成してしまいます。アミロイドβオリゴマーは神経細胞に対して強い毒性を持ち、神経細胞が死滅します。この際に生じたアミロイド線維が神経細胞の外に蓄積します。これが老人斑と呼ばれるものです。このように神経細胞の死滅が繰り返されると、やがて海馬の周辺や側頭葉、頭頂葉の大脳皮質が委縮し、認知機能の低下を引き起こします。アルツハイマー型認知症の脳では老人斑の数は顕著に増加します。そして、老人斑の産生の主な原因は老化であるといわれています。すなわち、数々の困難を乗り越え、日本人の平均寿命が延びたことによって老人斑の数が増えることが多くなり、アルツハイマー型認知症の数が増加することになったといえるのかもしれません。

アルツハイマー型認知症の薬

アルツハイマー型認知症では、脳内のアセチルコリンという物質が減少します。アセチルコリンは、脳内で記憶や思考、学習に深く関係している神経伝達物質です。現在の医療では、アセチルコリンがアルツハイマー型認知症治療のカギを握っていると考えられています。

アセチルコリンを増やす薬

1970年代後半になって、アルツハイマー病の脳でアセチルコリンが減少していることがわかりました。さらに1980年代、アルツハイマー病の脳では、脳の深部に位置する大脳基底核のアセチルコリンを産生する神経細胞が減少していることがわかり、これがアルツハイマー病の原因であるとするアセチルコリン仮説が生まれました。そこで、減少したアセチルコリンを薬として補充することによってアルツハイマー病の治療が可能になると考えられました。しかし、脳には血液脳関門という、いわば関所のような仕組みがあり、アセチルコリンは血液脳関門を通過することができません。そこで、血液脳関門を通過できるアセチルコリンの原料となるコリン、さらにその原料であるレシチンという物質をそれぞれ薬として投与するという方法が試みられました。しかし、どちらもアルツハイマー病の症状改善には至らず、アセチルコリンの補充療法は失敗に終わりました。

アセチルコリンを減らさない薬

アセチルコリンは、コリンとアセチルCoAを原料として神経細胞で産生され、シナプス小胞という袋のような組織に蓄えられます。そして、必要に応じて他の神経細胞との隙間に放出され、情報を伝達しますが、その役目が終わるとアセチルコリンはコリンエステラーゼという分解酵素によって分解されます。そこで、この分解酵素の作用を阻害し、アセチルコリンの分解を防ぐことによってアセチルコリンの減少を軽減しようと考え出された薬がコリンエステラーゼ阻害薬です。現在、病院で処方される治療薬はコリンエステラーゼ阻害薬が中心となっています。

病院で処方されるアルツハイマー型認知症の治療薬1:ドネペジル(アリセプト)による治療

ドネペジルは、現在、病院で処方されるアルツハイマー型認知症の治療薬として中心的存在となっている薬です。アメリカのファイザー社と日本のエーザイ社によって共同開発され、アルツハイマー型認知症の治療薬として世界で最初に承認された薬です。ドネペジルは、アセチルコリンを分解する酵素であるコリンエステラーゼを可逆的に阻害することによって脳内のアセチルコリンの濃度を上げ、神経細胞の機能を活性化する薬です。この薬の服用によって「落ち着きがみられ、物忘れが少なくなる」「会話の疎通性が良くなる」「服用前に比べて話の理解力が上がる」「物事の手順を考えられるようになる」「家族を他人と間違えることが少なくなる」「物事を思い出すまでの時間が短くなる」といった症状改善効果がみられます。このように薬の服用によってアルツハイマー型認知症の進行が抑えられ、10ヶ月前後は症状を維持できるといわれます。また、この薬は「軽度から高度に至るアルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制」に対する適応が承認されているため、重症度に関係なく使用されます。1日1回の服用で、主な副作用は消化器症状です。

病院で処方されるアルツハイマー型認知症の治療薬2:ガランタミン(レミニール)による治療

ガランタミンもドネペジルと同様に、アセチルコリンを分解する酵素であるコリンエステラーゼを阻害することによって脳内のアセチルコリン濃度を上昇させる薬ですが、さらにニコチン性アセチルコリン受容体に対するAPL作用により脳内コリン機能を増強させることにより、アルツハイマー型認知症における記憶障害の進行を抑制することが期待できる薬です。APL 作用とは、ニコチン性アセチルコリン受容体において、ガランタミンがアセチルコリンとは異なる部位(アロステリック部位)に結合し、アセチルコリンが受容体に結合した際の薬の働きを増強させる作用のことです。この薬の臨床試験では、認知機能障害悪化の抑制、日常生活動作の維持、介護者の見守り時間減少などの治療効果が示されています。適応は軽度および中等度のアルツハイマー型認知症です。病院で処方されるこの薬は1日2回の服用が必要で、主な副作用は消化器症状です。

病院で処方されるアルツハイマー型認知症の治療薬3:リバスチグミン(リバスタッチパッチ、イクセロンパッチ)による治療

リバスチグミンは、アセチルコリンの分解酵素であるアセチルコリンエステラーゼとブチリルコリンエステラーゼの阻害作用に基き、脳内のアセチルコリン濃度を上昇させて脳内コリン作動性神経機能を活性化する薬です。コリンエステラーゼにはアセチルコリンエステラーゼとブチリルコリンエステラーゼの2種類があります。アセチルコリンエステラーゼは神経細胞に存在し、神経伝達物質であるアセチルコリンのみを分解します。一方、ブチリルコリンエステラーゼは血管内皮細胞やグリア細胞に存在しています。アルツハイマー型認知症の進行にともなって神経細胞の脱落が起こり、アセチルコリンエステラーゼの活性は低下します。一方、脳内のグリア細胞の数は増加するため、相対的にブチリルコリンエステラーゼの活性は上昇しているため、アセチルコリンエステラーゼ阻害作用だけでなくブチリルコリンエステラーゼ阻害作用を合わせ持つこの薬は、脳内での更なるアセチルコリン濃度の上昇が期待されます。小野薬品から出ている薬には「リバスタッチパッチ」、ノバルティスファーマから出ている薬には「イクセロンパッチ」という製品名が付けられています。日本の病院で処方されるこの薬の剤形はパッチ剤(経皮吸収型製剤)です。パッチ剤では、緩やかで持続的な薬の供給が24時間行われ、最高血中濃度は経口剤よりも低く、消化器症状の副作用が生じることもあまりありません。その一方、パッチ剤という性格上、皮膚症状という副作用が起こります。しかし、副作用といっても発赤や痒みなどといった軽微なものがほとんどで、忍容性には大きな支障のないことが示されています。この薬の適応は軽度および中等度のアルツハイマー型認知症です。パッチ剤の利点としては、服薬の確認が容易で、副作用が出た場合には剥がすことによって薬の吸収を止めることが出来る点です。また、嚥下障害のある方に投与することも可能です。

病院で処方されるアルツハイマー型認知症の治療薬4:メマンチン(メマリー)による治療

この薬は、病院で処方される他の薬と違ってグルタミン酸が作用するNMDA受容体に働きかける薬です。アルツハイマー型認知症の原因としてはアセチルコリン仮説の他にも仮説があり、この薬は「グルタミン酸仮説」に基く治療薬です。グルタミン酸は脳内の主な興奮性神経伝達物質で、その受容体のひとつにNMDA受容体というものがあります。NMDA受容体は大脳皮質や海馬に高密度に存在し、記憶に関係しています。アルツハイマー型認知症の記憶障害(物忘れ)には、このグルタミン酸ニューロンや NMDA 受容体の減少が関与していると考えるのが「グルタミン酸仮説」です。この仮説では、グルタミン酸がNMDA受容体を過剰に刺激することによって神経細胞死や記憶形成過程の障害が引き起こされると考えられています。この薬は、NMDA受容体への過剰な刺激を抑えることによって神経細胞を保護し、記憶や学習機能障害を抑制する作用を持つ薬です。適応は中等度および重度のアルツハイマー型認知症です。この薬は1日1回の服用で、主な副作用は、めまい、便秘、体重減少、頭痛などです。

認知症の診断基準

認知症は、一度正常に達した認知機能が後天的な脳の障害によって持続性に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態をいい、それが意識障害のないときにみられます。国際的に広く用いられている認知症の診断基準として世界保健機関による国際疾病分類(ICD)や米国精神学会による精神障害の診断・統計マニュアル(DSM)があります。

認知症の診断基準:国際疾病分類(ICD-10)

国際疾病分類は、異なる国や地域から異なる時点で集計された死亡や疾病のデータの体系的な記録、分析、解釈及び比較を行うため、世界保健機関憲章に基づき、世界保健機関(WHO)が作成した分類です。ICD-10(1990年版)は、国際疾病分類の第10回目の改訂版として1990年の第43回世界保健総会において採択されたものです。以下のG1~G4の4つの内容に当てはまる場合に認知症と診断されます。

認知症の診断基準:国際疾病分類(ICD-10)G1

以下の各項目を示す証拠が存在する。
1) 記憶力の低下
新しい事象に関する著しい記憶力の減退。重症の例では過去に学習した情報の想起も障害され、記憶力の低下は客観的に確認されるべきである。
2) 認知能力の低下
判断と思考に関する能力の低下や情報処理全般の悪化であり、従来の遂行能力水準からの低下を確認する。
1)、2)により、日常生活動作や遂行能力に支障をきたす。

認知症の診断基準:国際疾病分類(ICD-10)G2

周囲に対する認識(すなわち、意識混濁がないこと)が、基準G1の症状をはっきりと証明するのに十分な期間、保たれていること。せん妄のエピソードが重なっている場合には認知症の診断は保留。

認知症の診断基準:国際疾病分類(ICD-10)G3

次の 1項目以上を認める。
1) 情緒易変性
2) 易刺激性
3) 無感情
4) 社会的行動の粗雑化

認知症の診断基準:国際疾病分類(ICD-10)G4

基準G1の症状が明らかに6か月以上存在していて確定診断される。

認知症の診断基準:精神障害の診断・統計マニュアル(DSM-III-R)

DSM-III-RがDSM-IIIの改定版として1987年に出版されました。カテゴリーは改名、再編され、基準には大きな変更がありました。6つのカテゴリーが削除され他のものが追加されました。議論となった診断は月経前不快気分障害と自虐的人格障害などで、検討の結果、削除されました。DSM-III-Rは、総計して567ページの長さで、292の診断を含有していました。以下のA~Eの5つの内容に当てはまる場合に認知症と診断されました。

認知症の診断基準:精神障害の診断・統計マニュアル(DSM-III-R)A

記憶(短期・長期)の障害

認知症の診断基準:精神障害の診断・統計マニュアル(DSM-III-R)B

次のうち少なくとも 1項目以上
1) 抽象的思考の障害
2) 判断の障害
3) 高次皮質機能の障害(失語・失行・失認・構成障害)
4) 性格変化

認知症の診断基準:精神障害の診断・統計マニュアル(DSM-III-R)C

A・B の障害により仕事・社会生活・人間関係が損なわれる。

認知症の診断基準:精神障害の診断・統計マニュアル(DSM-III-R)D

意識障害のときには診断しない(せん妄の除外)。

認知症の診断基準:精神障害の診断・統計マニュアル(DSM-III-R)E

病歴や検査から脳の器質的疾患の存在が推測できる。

認知症の診断基準:精神障害の診断・統計マニュアル(DSM-IV-TR)

DSM-IVの「テキスト改訂版」が2000年に出版され、DSM-IV-TRとして知られています。診断カテゴリーと診断のための大部分の基準に変更はありませんでした。各々の診断における追加の情報の一節とICDとの整合性を保つための診断コードが更新されました。5軸からなる体系をまとめました。第1軸は臨床的障害を取り入れる。第2軸はパーソナリティ障害と精神遅滞を取り扱う。残りの軸は、医療的な評価のための診断基準の機能的な必要性に応じ、医学的、心理社会的、環境的、また幼少期の要因を取り扱う。DSM-IV-TRは総計して943ページの長さで374の診断を含有していました。DSM-IIIでは主要な診断名の有病率が著しく高く報告されるようになり、過剰診断を促していると批判されたため、DSM-IVでは7割以上の診断基準に「著しい苦痛または社会的、職業的、その他の領域での機能の障害を引き起こしている」という項目を追加しました。以下のA、B、Cの3つの内容に当てはまる場合に認知症と診断されました。

認知症の診断基準:精神障害の診断・統計マニュアル(DSM-IV-TR)A

多彩な認知障害の発現。以下の2項目がある。
1) 記憶障害(新しい情報を学習したり、以前に学習していた情報を想起する能力の障害)
2) 次の認知機能の障害が1つ以上ある:
a. 失語(言語の障害)
b. 失行(運動機能は障害されていないのに運動行為が障害される)
c. 失認(感覚機能が障害されていないのに対象を認識または同定できない)
d. 実行機能(計画を立てる、組織化する、順序立てる、抽象化すること)の障害

認知症の診断基準:精神障害の診断・統計マニュアル(DSM-IV-TR)B

上記の認知障害は、その各々が社会的または職業的機能の著しい障害を引き起こし、また、病前の機能水準からの著しい低下を示す。

認知症の診断基準:精神障害の診断・統計マニュアル(DSM-IV-TR)C

その欠損はせん妄の経過中にのみ現れるものではない。

認知症の診断基準:精神障害の診断・統計マニュアル(DSM-5)

DSMの第5版。DSM-5は、2012年12月1日にアメリカ精神医学会(APA)の理事委員会にて承認され、2013年5月18日に公開されました。総計して922ページの長さになりました。 DSM-5は広範に診断が修正され、一部では定義を広げた部分もある一方、定義を狭めた部分もあります。DSM-5は、20年ぶりとなるマニュアルの主要な改定で、ローマ数字方式は改定番号を明確にするために中止されています。第5版における大きな変更は、統合失調症の亜型の削除案です。改定作業中、APAのウェブサイトは見直しと議論のためにDSM-5のいくつかの一節を定期的に掲載していました。日本語訳されたDSM-5では、個々の診断名の「障害」という部分を「症」にするという議論がありましたが、過剰診断を招く可能性があるため、それぞれの診断名が併記されることになりました。以下のA~Dの4つの内容に当てはまる場合に認知症と診断することができます。

認知症の診断基準:精神障害の診断・統計マニュアル(DSM-5)A

一つ以上の認知領域(複雑性注意、実行機能、学習および記憶、言語、知覚 – 運動、社会的認知)において、以前の行動水準から有意な認知の低下があるという根拠が以下に基づいている。
1) 本人、本人をよく知る情報提供者、または臨床家による、有意な認知機能の低下があったという懸念
2) 可能であれば模範化された神経心理学的検査に記録された、それがなければ、他の定量化された臨床的評価によって実証された認知行為の障害

認知症の診断基準:精神障害の診断・統計マニュアル(DSM-5)B

毎日の活動において、認知欠損が自立を阻害する(すなわち、最低限、請求書を支払う、内服薬を管理するなどの、複雑な手段的日常生活動作に援助を必要とする)。

認知症の診断基準:精神障害の診断・統計マニュアル(DSM-5)C

その認知欠損は、せん妄の状況でのみ起こるものではない。

認知症の診断基準:精神障害の診断・統計マニュアル(DSM-5)D

その認知欠損は、他の精神疾患によってうまく説明されない(例:うつ病、統合失調症)。

アルツハイマー病は死因の第10位(女性)

ここ数年、アルツハイマー病で亡くなる人の数は急増しています。特に女性の数が多く、厚生労働省発表の平成29年人口動態統計によるとアルツハイマー病は女性の死因第10位です。死因の10位に登場するのは平成27年からで、その数7,229人で、前年よりも809人増加しています。その後、毎年993人、2,955人ずつ増加し、平成29年のアルツハイマー病を死因とする女性の数は11,177人です。血管性等の認知症も毎年増加していて、死因としての認知症の急増が深刻化しています。

アルツハイマー病が死因となる数が少なすぎるのは死亡診断書の書き方が原因

アルツハイマー病は死因になりうる病気でアメリカには500万人以上の患者がいると推定され、発症が判明してからの余命は3年から10年程度の場合が多いといわれています。このことから推定すると、2010年に発表されたアルツハイマー病を死因とする死亡数が8万3494人というのは、かなり少ないように思えます。米ニューロロジー誌に掲載された研究によると、この数字に対する違和感は、アルツハイマー病が死亡診断書に死因として記載される数があまりにも少ないことに起因するのだといいます。この研究の試算では、2010年にアルツハイマー病で亡くなった人の数は50万3400人で、公的な記録の6倍以上です。公的な記録では、仮にアルツハイマー病患者が肺炎で亡くなったとしても、その死因にはアルツハイマー病は記載されず、肺炎だけが記載されるのです。アルツハイマー病が原因となり、肺炎を回復することができなかったのかもしれないという可能性は一切考慮されません。

アルツハイマー病はアメリカ人の死因の第3位

「アルツハイマーは、脳の記憶や思考を司る部位で最初に発症する。それが何年もかけて呼吸や咀嚼、心拍を司る脳の部位に広がっていく。多くの人はそれを知らない。アルツハイマーで人が死ぬとは考えられていない」と、この研究の主執筆者であるラッシュ大学医療センターのブライアン・ジェームズ医学博士は言っています。研究チームは65歳以上の2566人を8年間かけて追跡調査しました。その結果、アルツハイマー病を発症した人の方が発症しなかった人に比べて著しく死亡率が高いことが判明しました。75〜84歳で発症した場合は4倍以上、85歳以上で発症した場合は約3倍、死亡率が高かったといいます。また、75歳以上の人の3分の1以上の死因がアルツハイマー病だったこともわかりました。「アルツハイマーに何らかの形で関わっている多くの人は、こうした数字には驚かないだろう。ほとんどの関係者は、アルツハイマーによる死がかなり過少報告されていることを認識している」と、ジェームズ氏は言います。この研究を考慮に入れれば、アメリカ人の死因として、アルツハイマー病は心臓病、癌に次いで第3位になると考えられます。

死因とは

死因とは、生命維持に必要な脳、循環、および呼吸の諸機能が全面的に不可逆的停止をきたすとき、その原因となった傷病名や症候群名を指す言葉です。複数の損傷や疾病がある場合や、損傷と疾病が組み合わされたりする場合、あるいは2つ以上の医薬品が用いられ、ともに薬物ショックを引き起こす誘因となる場合などでは、死因は複雑になります。1967年、世界保健機関(WHO)では、死亡診断書に記載される死因とは、「死亡を引き起こし、またはその一因となったすべての疾病、病態、もしくは損傷、およびこれらの損傷を引き起こした事故、もしくは暴力の状況」と定義しています。これは、死亡に関与したすべての事項を死亡診断書に記載することを目的としたものです。死亡に直接関係した死因を直接死因、死亡に影響を及ぼしたと思われる身体状況(併存症、持病など)を間接死因と呼びます。現行の医師法施行規則で定められた死亡診断書、および死体検案書では、直接の死因を第一に、次に医学的に因果関係のあったと考えられる死因を書くことが要請されています。

日本での死因としての傷病名

日本での死因としての傷病名は、現在の日本医学界で通常用いられている傷病名を用い、心臓麻痺や衰弱などのような死亡時に一般的に共通する症状名は含まないとされています。法医学領域では、複数の損傷あるいは病変があり、これらが単独で死因となりうるときには、死因は「競合関係にある」といいます。この場合、優先性をもつ損傷や病変が死因と決定されます。病死の死因を明らかにすることは、病気の性質、治療方法の発見・改良の上からも大切であると考えられます。日本では結核が長らく死因の上位を占めてきましたが、最近では悪性新生物、心疾患、脳血管疾患が上位を占めるようになり、女性の死因としてはアルツハイマー病が急上昇しています。なお死亡統計では、傷病の経過からみて出発点となった傷病(原死因)で統計をとることになっています。

アルツハイマー型認知症は遺伝するのか?

認知症には、原因遺伝子、感受性遺伝子、後天的に変化する遺伝子の3パターンの遺伝子が関係しているといわれています。

アルツハイマー型認知症と原因遺伝子

遺伝子異常によって認知症が引き起こされるものには3パターンがあるといわれますが、そのひとつが原因遺伝子と呼ばれるものです。この異常遺伝子は、単独で高確率に病気を引き起こすもので、遺伝病に関係する遺伝子です。アルツハイマー型認知症では、3つの原因遺伝子が知られています。遺伝子性アルツハイマー型認知症は家族性で、その多くは30~40代で発症するといいます。これは極めて稀な病気で、認知症全体の0.001%以下と考えられています。このタイプの認知症は、10代から脳内に変化が起き始めるといわれています。

アルツハイマー型認知症と感受性遺伝子

感受性遺伝子が関係する認知症では、複数の遺伝子が少しずつ影響を及ぼし合って病気を引き起こします。関係するたくさんの遺伝子のひとつひとつが感受性遺伝子です。アルツハイマー型認知症では、アポE4遺伝子が感受性遺伝子として有名です。この他にも、20個以上の遺伝子に認知症の感受性遺伝子である可能性があり、研究が進められています。感受性遺伝子による認知症は、生活環境や生活習慣を改善することによって発症を抑制できる可能性があるのではないかという研究が行われています。

アルツハイマー型認知症と後天的に変化する遺伝子

両親から伝達する遺伝子とは別に、後天的に遺伝子が変化することによって病気が発症することもあります。母体中にいる胎児期に、喫煙、感染症、薬、放射線曝露などの影響によって遺伝子情報に変化が起き、病気の発症につながることがあるというのです。ガンや先天性奇形だけではなく、自閉症、心血管疾患などといった病気も生じうるといわれます。胎児期の母体環境が好ましくない場合に、脳の発達に影響が生じ、高齢期になって認知機能障害が起こる可能性も示唆されています。誕生後にも遺伝子に異常が起こることがあります。このような遺伝子の変化は、お母さんの生活環境や生活習慣を見直すことによって子供の将来の健康リスクを減らすことができます。

アルツハイマー型認知症には遺伝よりも生活習慣が大きく影響?

アルツハイマー型認知症の発生には遺伝よりも生活習慣の方が大きな影響を与えるケースが多いことがわかってきています。例えば、アメリカとナイジェリアに住む黒人のアルツハイマー型認知症の発生率を比較した研究によると、アメリカに住む黒人のアルツハイマー型認知症の発生率はナイジェリアに住む黒人に比べて約4倍という結果が示されました。また、一卵性双生児におけるアルツハイマー型認知症の発症率の差異に関する研究も行われています。この研究は、スウェーデンの研究所において1950年代の終わり頃から約10万人の一卵性双生児を対象とした研究です。これによると、一卵性双生児のうちの一人が認知症を発症したときに、もう一人も認知症になる確率は約50%であることがわかったといいます。遺伝子の構造と内容が一致する一卵性双生児において、このような結果が得られたことからも「認知症には遺伝よりも生活環境や生活習慣の方が大きく影響しているのではないか」と考えることができます。

アルツハイマー型認知症の検査

アルツハイマー型認知症の検査には、神経心理学的検査、画像検査、血液検査などがあります。脳の変性を正確に把握することは最新の検査機器を使用しても難しいとされ、問診と神経心理学的検査をベースに画像検査の結果などを考慮し、総合的に診断することが大切であるといわれます。

神経心理学的検査とは

神経心理学的検査とは高次脳機能を評価するための検査で、認知症診療においては必須の検査とされています。認知症に伴う症状としては中核症状と行動・心理症状(BPSD)が挙げられ、これらの症状を定量化することを目的として神経心理学的検査が用いられます。神経心理学的検査は、スクリーニングとしての検査、認知症の進行度合いや治療効果の評価としての検査、鑑別診断の補助としての検査に分類することができます。代表的な検査としては、HDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)やMMSE(Mini-Mental State Examination)が広く一般に使用されています。また、タッチパネル式コンピュータを用いた簡易スクリーニング法(物忘れ相談プログラム)も推奨されています。認知症の症状は様々で、ひとつの神経心理学的検査で全ての症状を評価することは難しいため、評価目的によって使い分ける必要があるといわれます。ただし、世界中で多種多様な神経心理学的検査が開発されているため、その選択には検査の信頼性や妥当性、対象疾患やその重症度等を考慮し、しっかりとエビデンスを調べたうえで導入することが望まれます。また、検査の総点数だけで評価するのではなく、どこを間違えたかを確認することによって障害されている機能をある程度推測することができるため、多面的に評価することが必要とされます。

アルツハイマー型認知症の検査1:HDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)

1974年、認知症(当時は痴呆と呼ばれていました)スクリーニングテストとしてHDS (長谷川式簡易知能評価スケール)が作成されました。しかし、HDSが作成されてから長い年月が経過し、その質問項目が現代社会に適合していない部分があること、質問項目のなかで統一性に欠ける問題があることなどいくつかの点が指摘されるようになり、1991年にHDSの内容を再構成し、さらに認知症の鑑別力の高いスケールとしてHDS-Rが作成されました。HDS-R作成にあたって削除された項目は、出生地、終戦の年、1年は何日か、日本の総理大臣の名前、最近起こった出来事からどのくらい経ったかという5項目です。これらの項目は、検査に際して同席者が必要である、日本人以外の人に行う際に困難である、被検者が若年者の場合には不適当である、簡単すぎるなどという理由によって削除されたといわれます。HDS-Rは、年齢、日時の見当識、場所の見当識、3つの言葉の記銘、計算、数字の逆唱、3つの言葉の遅延再生、5つの物品の記銘、言語の流暢性の9つの項目で構成されています。HDS-Rの特長として簡便さと検査時間の短さが挙げられ、事前に被検者の生年月日さえ調べておけば検査を行うことができます。また、HDS-Rは動作性の検査が含まれていないということにも利点があり、高齢者にとって負担が大きく防御的な反応を引き起こさせる原因になることや日常生活動作の障害になることを避け、あえて動作性検査を排除したとされています。動作性検査がないことにより、血管性認知症による麻痺やレビー小体型認知症やパーキ‍ンソン病でみられるパーキンソニズムなどのように運動機能に障害をきたしている可能性がある人にも使うことができます。また、記憶に関する配点が高くなっているため、特にアルツハイマー型認知症の鑑別には有用であると考えられます。HDS-Rの結果に与える要因としては、年齢や教育歴とは相関を示さなかったと報告されていることより、加齢や教育年数に影響を受けにくい検査であることが示唆されます。また、MMSEとの相関値も高く、既知の認知症スクリーニング検査との併存的妥当性も高いと考えられます。この検査は30点満点で行われ、点数が低いほど認知機能障害が重度であることを示す検査です。カットオフ値を21/20とした際に、アルツハイマー型認知症や血管性認知症が含まれた認知症群と非認知症群を識別できる感度は90%、特異度は82%と報告されており、その有用性は高い検査であるといわれます。ただし、HDS-Rはあくまでスクリーニング検査であり、この検査のみによって診断するものではないこと、重症度分類を行うための検査ではないこと、認知症の種類を鑑別できる検査ではないことには注意を要します。

アルツハイマー型認知症の検査2:MMSE(Mini-Mental State Examination)

MMSEは、HDS開発の1年後の1975年に開発され、広く世界中で使用されている認知症のスクリーニング検査です。当時は他にも認知機能を評価する検査が多くあったようですが、どれも短時間で実施できる検査ではなく、ある程度の時間を要するものだったため、MMSEの開発に至ったとされています。また、”Mini” としているのは、気分、精神状態、考える姿勢に関する質問を除外し、認知機能のみに濃縮していることが由来であるといわれます。MMSEは、時間の見当識(時間、場所)、記銘(物品名の復唱)、注意(計算、あるいは言葉の逆唱)、想起(物品名の想起)、言語(物品名の呼称、文章の反復、3段階の口頭命令、読解、書字)、図形模写の11項目で構成されています。HDS-Rと異なる点として4つの動作性の検査(3段階の口頭命令、読解、書字、図形模写)が含まれていることが挙げられます。MMSEは30点満点の検査で、カットオフ値を24/23点としたとき、感度83%、特異度93%だったと報告されています。このように非常に優れた結果が得られている一方、教育歴や年齢の影響を受けることがわかっています。教育年数が少ないと若年者でも点数が低くなることが報告されていますが、この現象は発展途上国に多いケースであると考えられています。9~12年の教育歴ではMMSEの平均は28 ± 1.9点だったという研究報告があり、9年間の義務教育を受けている日本では、その影響は少ないと考えられます。ただし、教育年数が16年以上の人を対象にMMSEを実施した研究では、認知症の人を検出するにはカットオフ値を27/26点としたときに、感度89%、特異度91%だったことが報告されていて、教育年数が高いと検査結果が良くなることが示唆され、検査に際して教育年数を確認する意義はあると考えられます。また、年齢に関しても85歳以上の人では平均点が24 ± 2.9点だったと報告されていましたが、これは1993年に報告されたpopulation-based studyのデータであり、正確な臨床診断はできていないことを制限として述べているため、仮に現在の診断精度で行なっていた場合、軽度認知障害(MCI)や軽度アルツハイマー型認知症と診断される人もいた可能性があります。MMSEはHDS-Rと同様にスクリーニング検査であるため、認知症の種類を鑑別できる検査ではなく、原版でも認知症の種類は特定されず、神経変性型の認知症を対象にしていることや、うつ状態でもMMSEの点数の低下がみられたと報告されています。MMSEとHDS-Rの使い分けについては、両者に類似している問題がありますが、MMSEは動作性の検査が含まれていること、HDS-Rは言語性の問題に重点を置いていることを考慮して使用しやすい方を選択し、必ずしも両方の検査を行わなくてもよいといわれています。

アルツハイマー型認知症の検査3:物忘れ相談プログラム

物忘れ相談プログラムは、2002年に開発されたタッチパネル式コンピュータを用いた簡易認知機能スクリーニング検査です。言葉の即時再認、日時の見当識、図形認識(立方体、三角柱)、言葉の遅延再認の5項目で構成されています。HDS-RやMMSEは対人式の検査法であるのに対して、物忘れ相談プログラムはタッチパネル式コンピュータを用いた検査法であるため、被験者が一人でできる検査です。検査に要する時間も短く、約5分間です。また、タッチパネル式コンピュータを用いることによってゲーム感覚で検査を受けることができ、被験者の精神的・身体的なストレスが少ないといえます。また、毎回同じ聞き方で質問をすることができるため、検査者による差異や誘導尋問によりヒントを出してしまうといったことがない点も利点であると考えられます。その一方で、コンピュータの画面がちゃんと見えているか、文字が認識できているか、音声がしっかりと聞こえているかといった確認が検査前に必要とされます。さらに、タッチパネル式のコンピュータは高齢者にとってなじみが薄い存在のため、操作性を説明する必要があり、うまく画面をタッチできていないため、解答していないことになってしまう場合がしばしばみられるといいます。そこで、タッチパネル式コンピュータの操作に慣れてもらうために、物忘れ相談プログラムには検査の他に練習問題を1問実施することができるシステムが備わっています。初めて検査を行う人には練習問題からスタートしてもらうことが望ましいとされます。また、押し間違いによる再入力は検査時間の延長によりストレスの原因になるため、基本的には行えないようになっています。被験者から押し間違えの訴えがあった際には最後に点数を修正することで対応します。物忘れ相談プログラムは15点満点の検査で、カットオフ値を13/12点としたとき、アルツハイマー型認知症群と健常対照群を識別できる感度は96%、特異度は97%と報告されています。広く一般に使用されていて、地域の認知症検診や病院での一次スクリーニングの際に用いられている検査方法です。

アルツハイマー型認知症の検査4:時計描画検査(CDT)

時計描画検査は、視空間認知と構成能力を評価できる簡易な検査です。時計描画検査は多くの研究者からその有用性が報告されている検査で、前頭葉機能を反映し、特にアルツハイマー型認知症の発見に有用であるといわれます。文化圏によらず実施することができ、教育年数にも左右されず、被験者に拒否されにくい検査です。この検査は、基本的に時計の文字盤を書き、そこに文字と指定時間の長針および短針を書くという簡単な検査方法です。方法に関しては、時間を指示して書かせる方法、時計を見せてコピーさせる方法など様々な方法があります。時計の円盤は、事前に記載しているもの(外円法)と円から書いてもらうもの(白紙法)があります。書いてもらう時間は、10時10分や11時10分が多い感がありますが、8時20分や1時45分等様々で、なかには時間は記載させずに文字盤のみ記載させるという方法もあります。検査法が多岐にわたるため、採点法も一致していないことが多く、どのような採点法を使用するかによって疾患鑑別の感度や特異度に差があるため、施設ごとにエビデンスを見極めた方法を選択する必要があるといわれます。ただし、この検査はスクリーニング検査であるため、できるだけ簡単に評価できる方法が望ましいと考えられます。時計描画検査はアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症で点数が悪くなる傾向がありますが、時間を指示して書かせる方法と比較し、時計を見せてコピーさせる方法においては、アルツハイマー型認知症では点数の改善を示したがレビー小体型認知症では改善が見られなかったというが報告があります。

アルツハイマー型認知症の検査5:アルツハイマー病評価スケール(ADAS)

アルツハイマー病評価スケール(ADAS)は、1983年に開発され、アルツハイマー型認知症の認知機能障害を評価する認知機能下位尺度(ADAS-cog)と精神状態等を評価する非認知機能下位尺度(ADAS-non cog)の2つの下位尺度から構成されていますが、認知機能下位尺度が独立した認知機能検査として多く用いられます。認知機能下位尺度は、記憶、言語、行為の3領域の評価に重点をおき、単語再生、口頭言語能力、言葉の聴覚的理解、喚語困難、口頭命令に従う、手指および物品呼称、構成行為、観念運動、見当識、単語再認、テスト教示の再生能力の11項目で構成されています。一方、非認知機能下位尺度は、涙もろさ、抑うつ気分、集中力の欠如、検査に対する協力度、妄想、幻覚、徘徊、多動、振戦、食欲の亢進/減少の10項目で構成されています。認知機能下位尺度は全問正解で0点、全問不正解で70点の検査となっています。MMSEやHDS-Rと違い、高得点になるほど認知機能障害が高度となる点に注意が必要となります。検査時間も40分前後かかるため、スクリーニング検査として使用するものではありません。アルツハイマー病評価スケールは原則としてアルツハイマー型認知症を対象としたコリン作動薬による認知機能の変化を評価することを目的としているため、治療効果を評価するために用いることが適切な使用方法であると考えられます。アメリカの食品医薬局(FDA)でもアルツハイマー型認知症の治験でアルツハイマー病評価スケールを使用することを推奨されていて、アルツハイマー型認知症の治験ではスタンダードで用いられている検査法であり、多くの論文が報告されています。認知機能下位尺度のアルツハイマー型認知症の自然経過として年間9~11点上昇すると報告されていて、その悪化率は軽度アルツハイマー型認知症や高度アルツハイマー型認知症より中等度アルツハイマー型認知症の方が高かったことが示されています。また、MMSEによる重症度分類別(MMSE < 23点:極軽度、MMSE = 20–23点:軽度、MMSE = 10–19点:中等度、MMSE = 0–9点:高度)の認知機能下位尺度の点数としては、極軽度が23.1 ± 7.7点、軽度が22.9 ± 8.9点、中等度が38.6 ± 9.8点、高度が54.8 ± 7.6点だったと報告されています。

アルツハイマー型認知症の検査6:TDAS(Touch Panel-type Dementia Assessment Scale)

TDASは、アルツハイマー型認知症の進行度合いや薬物治療の効果を検出する指標として世界的に最も信頼性が得られている認知機能検査である認知機能下位尺度を一部改変し、タッチパネル式コンピュータに導入したものです。ひとつの機械に物忘れ相談プログラムとTDASがソフトとして入っている形になっています。検査項目は、単語再認、口頭命令、図形認識、概念理解、名称記憶、時間の見当識、お金の計算、道具の理解、時計の理解の9項目です。アルツハイマー病評価スケールの場合は、検査時間が約40分前後かかる緻密な検査であるため、ある程度検査を熟知した者が行うことが必要とされますが、TDASの場合はコンピュータが質問をするため、誰でも行うことができるのが利点です。また、検査時間も約20分と短時間で実施可能です。TDASは、全問正解で0点、全問不正解で101点の検査です。特に単語再認の配点は72点と最も高く、記憶に関する配点が大きくなっている検査であるため、アルツハイマー型認知症に対して有用であることが示唆されます。TDASでは、≤ 6点が正常域、7~13点が予防域(MCIの多くが含まれる)、≥ 14点が認知症の疑いがあると概ね考えられていて、地域の認知症検診や認知症予防教室の効果判定の際に頻用されていて、その有用性も確認されているといわれます。TDASのアルツハイマー病評価スケールに対する大きな違いは、TDASはコンピュータを用いた検査であるため、認知機能下位尺度の11項目全てをコンピュータ化することはできず、認知機能下位尺度のうち7項目を採用し、新たに2項目(お金の計算、時計の理解)を追加している点です。

アルツハイマー型認知症の検査7:SIB(Severe Impairment Battery)

多くの認知機能検査は軽度から中等度の認知症患者を対象としていますが、SIBは認知機能が中等度から高度の認知症患者を評価する目的で開発された検査です。SIBは40個の質問からなり、社会的相互作用、記憶、見当識、言語、注意、実行、視空間能力、構成、名前への志向の9つの下位尺度から構成されています。100点満点で評価し、点数が低いほど認知機能障害が高度であることを示します。高度アルツハイマー型認知症を対象とした治験でも評価尺度として用いられています。

アルツハイマー型認知症の検査8:CDR(Clinical Dementia Rating)

国際的に広く使われている認知症の重症度を評価する観察式の評価尺度のひとつです。検査に際しては、被験者だけでなく被験者の日常生活をよく知っている介護者からの情報も必要とされます。検査は、記憶、見当識、判断力と問題解決、地域の活動、家庭状況および趣味、身の回りの世話の6項目について、論文で示されている判定表に基づき、0点、0.5点、1点、2点、3点の5段階でそれぞれの項目を評価し、これらの6項目の評価点を総合的に判断し、CDR = 0:健康、CDR = 0.5:認知症の疑い(一般的にMCIあるいは極軽度の認知症と考えられている)、CDR = 1:軽度認知症、CDR = 2:中等度認知症、CDR = 3:高度認知症と判定します。CDRの使い方は総合評価だけでなく、6項目の合計点数を求めて評価(sum of boxes)する方法を用いている研究もあり、より定量的に認知症の経過を評価することも可能であるといわれます。

アルツハイマー型認知症の検査9:FAST(Functional Assessment Staging)

FASTは、アルツハイマー型認知症の重症度を日常生活動作の障害によって分類する評価法です。CDRと同様に国際的に頻用されている観察式の臨床病期分類で、日本でも使用頻度は高いといわれます。評価は論文で示されている判定表に基づき、stage 1=正常、stage 2=年齢相応、stage 3=境界状態、stage 4=軽度アルツハイマー型認知症、stage 5=中等度アルツハイマー型認知症、stage 6=やや高度アルツハイマー型認知症、stage 7=高度アルツハイマー型認知症と判断されます。またstage 6と7はさらに5段階と6段階の下位分類が設定されていて、進行に応じた具体例が示されています。

アルツハイマー型認知症の検査10:CT検査

CT検査は認知症の画像検査の中で最もよく行われる検査といわれているもので、正式にはコンピュータ断層撮影法といいます。体にエックス線を照射し、各組織のエックス線の吸収量をコンピュータにより画像化するもので、輪切り状態の脳の断面図を見ることができます。CT検査では、エックス線を多く吸収する骨は白く見え、エックス線をほとんど吸収しない空気は黒く見えます。脳はその中間で、灰色の濃淡を呈し、水分や脳脊髄液は黒く見えます。CTの検査時間は30秒~5分程度です。

アルツハイマー型認知症の検査11:MRI検査

MRI(磁気共鳴画像診断法)は、人体を強い磁場の中に置き、特定の電磁波を当てたときに生じる微弱な電気信号を画像化する検査方法です。CT検査よりも形態学的変化が鮮明に写り、様々な角度からの断面を得られます。慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症との鑑別や、クロイツフェルト・ヤコブ病、̪嗜銀顆粒性認知症などの診断にも有効とされます。また、エックス線を使用しないため、被爆の心配のない検査といわれます。

アルツハイマー型認知症の検査12:SPECT検査

CT検査やMRI検査が脳の形態学的変化をとらえるのに対して、SPECT検査は脳の機能学的変化を調べる検査です。正式には単一光子放射断層撮影といい、特殊な放射性医薬品を使用して脳の血流状態を画像化するものです。画像解析ソフトを用いることによって、脳の血流が低下した部位を立体的に表示することができます。PET検査より実施施設が多いといわれます。アルツハイマー型認知症では、軽度認知障害(MCI)の段階から特定部位の血流量の低下がみられるため、早期診断に有効とされます。

アルツハイマー型認知症の検査13:PET検査

PET検査は細胞の代謝を調べる検査で、正式には陽電子放射断層法といいます。放射性物質を含む特殊な薬剤を体内に投与し、細胞から放出された陽電子を画像化する検査です。PET検査で脳の糖代謝を調べることによって、活動性が低下している部位がわかり、認知症の早期診断やタイプの判定に役立つといわれます。PET検査は健康保険の適用外で、機器も高額であるため、実施施設は限られています。臨床試験の段階にあるアミロイドPET(アミロイドイメージング)もPET検査のひとつで、従来は死後剖検でしか発見できなかったアミロイドβの沈着を画像化することを可能にしました。

アルツハイマー型認知症の新薬、臨床試験が相次いで失敗

最近、アルツハイマー型認知症の新薬開発において注目されていた2種類の新薬の臨床試験が相次いで失敗したという発表が行われました。まずは、『Journal of the American Medical Association(JAMA)』2018年1月9日号に発表されたアルツハイマー型認知症患者に対する選択的セロトニン5-HT6受容体拮抗薬「イダロピルジン(idalopirdine)」の有効性が示されなかったとする臨床試験の結果です。そして、『New England Journal of Medicine』2018年1月25日号に発表されたイーライリリー社が開発をめざしていた抗アミロイドβ(Aβ)抗体薬の「ソラネズマブ(solanezumab)」も認知機能の低下の有意な抑制は示されなかったとする臨床試験の結果です。

新薬「ソラネズマブ」の臨床試験が失敗した理由

ソラネズマブは、アルツハイマー型認知症に関係するとされる脳のアミロイドβと呼ばれるタンパク質に結合するため、アミロイドβが脳に蓄積する前に除去できるとされてきました。これまでのアルツハイマー型認知症の治療や予防を目的とした新薬のほとんどは、主として患者の脳内に蓄積するアミロイドβを標的にしていました。しかし、米メイヨー・クリニックのRonald Petersen氏によると、アミロイドβを標的とした新薬の臨床試験の多くは、開始時にアルツハイマー型認知症患者の脳内に沈着しているアミロイドβを正確に調べる判定法がないため、死後に剖検で確認するしか方法がなかったといいます。しかし、アミロイドPET検査によって生前にアミロイドβを測定することが可能となった現在、アルツハイマー型認知症患者の脳内に高レベルのアミロイドβの蓄積が認められない患者が約30%もいることがわかってきました。Petersen氏は「アミロイドβを標的とした新薬の臨床試験で対象者の30%に蓄積したアミロイドβがないのであれば、その臨床試験は成功するはずがない」と強く主張しています。また、米ケンタッキー大学准教授のMichael Murphy氏は「アミロイドβの除去がアルツハイマー型認知症を改善するという前提を再考する必要がある。遺伝学的根拠からアミロイドβがアルツハイマー型認知症に関与していることは確実だ。しかし、発症してからアミロイドβを取り除けば患者の状態が良くなるのかどうかは分からない」と説明しています。

新薬の研究がアミロイドβを標的としていたのはなぜか?

米アルツハイマー病協会(AA)のJames Hendrix氏によると「10年前はアルツハイマー型認知症の新薬を開発する研究資金が潤沢でなかったため、最も有望視されたアミロイドβを集中的に研究せざるを得なかった。だが最近は新薬研究の資金が拡充され、アミロイドβ以外にもタウやニューロンの炎症、脳のエネルギー利用などの多因子の新薬研究が進んでいる」といいます。さらにHendrix氏は「アルツハイマー型認知症を発症しても、記憶力を維持したまま他の疾患で死亡するまで進行を遅らせることができれば、治療の成功といえるだろう」とも語っています。

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